メディカル・ズームイン

ハイブリッド手術”で患者さまにオーダーメイド治療を提供
体にやさしい最新の脳血管治療

日本人の死因の第4位をしめる脳卒中。発症後は迅速で的確な治療を受けられるかどうかで、生命予後、機能予後が大きく変わってきます。明理会中央総合病院では、最新の脳血管治療と熟練した脳外科手術を患者さまの容態に合わせて選択。“ハイブリッド医療”を提供できる医療機関として地域の信頼を集めてきました。脳神経外科・脳卒中センターで脳血管内治療科部長を務める中村真医師に詳細をうかがいます。

明理会中央総合病院 脳神経外科 脳血管内治療科部長 中村 真 医師

  • 脳神経外科専門医
  • 脳卒中専門医
  • 脳神経血管内治療専門医
  • ECFMG取得

脳梗塞に高い効果のある「血栓回収療法」

ー 明理会中央総合病院は、脳卒中の治療に定評があり、日本脳卒中学会から「一次脳卒中センターコア施設※ 」に認定されているとうかがいます。まず「脳卒中」とはどんな病気なのか教えてください。
中村 
脳卒中は「脳血管障害」とも呼ばれ、脳の動脈が破れて出血する「脳出血」と、動脈に血栓(血の塊)が詰まる「脳梗塞」とに大別できます。
脳出血には脳実質内の血管が破れる「脳実質内出血」と、主に脳動脈にできたコブ(脳動脈瘤)が破裂して起こる「くも膜下出血」の2タイプが。一方、脳梗塞には血栓の種類などから「心原性脳塞栓症」「アテローム血栓性脳梗塞」「ラクナ梗塞」の3タイプがあります。

ー いずれも前触れもなく、いきなり発症するのですね?
中村 脳の血液循環が急に障害されるため、突然の激しい頭痛、嘔吐、体の半身のしびれ、ろれつが回らない、ふらつくなどの症状が複数現れます。容体が急速に悪化する例も多いので、迷わず救急車を依頼しましょう。
脳は他の臓器と比べて酸素やエネルギーの必要量が格段に多い組織ですから、血流が通常の40%以下に低下すると脳機能の麻痺が起こり、20%以下では短時間に脳の神経細胞が壊死するとされています。
したがって発症から治療開始までは1分1秒を争う勝負。一命をとりとめられるか、体の麻痺や高次機能障害などの後遺症を残さずに済むか、社会復帰を果たせるか、明暗がわかれます。

ー どんな治療が行われるのか、脳梗塞から教えてください。
中村 では、脳梗塞の3タイプについて簡単に説明しましょう。心原性脳塞栓症は、心房細動(不整脈の一種)など心臓の異常のために心臓内でできた血栓が、脳動脈まで流れて詰まるもの。血栓が大きい上、粘っこく溶けにくいため、太い動脈が詰まり重症化しやすいタイプです。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳動脈の動脈硬化が原因。血液中の悪玉コレステロールなどが血管の内壁に浸潤。お粥状のアテロームと化して凝集し、血管を狭窄させます。さらにアテロームが破れると血小板が集まって血栓化。血管を塞ぎます。特に内ないけ頚い 動脈はアテロームができやすく、ここでできた血栓が脳動脈に運ばれ、発症するケースも多く見られます。
ラクナ梗塞は太い動脈から分岐した細い動脈(穿通枝)が動脈硬化で閉塞するタイプで、血栓も小さめ。中には症状が軽微なまま、複数のラクナ梗塞が発生し、脳血管性認知症に至る例もあるため、要注意です。

ー 元凶の血栓を取り除くことが治療の基本になりますね。
中村 はい。血流を再開し、壊死に瀕した神経細胞(ペナンブラ)を少しでも多く救わなければなりません。当院では救急搬送後、ただちに
MRI検査を行い、脳梗塞の発生部位や程度を把握。発症後4~5時間以内であれば、血栓を溶かす薬
を点滴で入れるt-PA静注療法を併行して行います。検査の結果「血栓回収療法」の適応と判断され
れば、すぐ血管撮影室(アンギオグラフィ室)に移動。血管撮影装置(アンギオグラフィ)は血管内にカテーテルで造影剤を注入し、継続的なレントゲン透視を行うことで、血管の状態や治療の課程をリアルタイムで追跡・確認できる装置です。

ー 血栓回収療法とは、開頭手術がいらない、低侵襲な血管内治療の一つですね。
中村 適応となるのは原則発症後8時間以内。ただし人によって24時間以内なら、効果が望めます。通常、鼠そ け い 径部の動脈からカテーテルを刺入。血管撮影装置のモニターで確認しながら、脳動脈の患部まで血栓を回収する器具を届けます。当院では血栓をからめ取る筒状のステントと、血栓を吸引するポンプを併用する、コンバイン方式を主に採用。血栓回収に成功し、血流が再開したとたん、運動麻痺や言語麻痺が改善。手術台の患者さまと会話ができる例もあり、劇的に症状が改善する場合もある治療です。
なお、血管の細いラクナ梗塞はカテーテルが届きませんので、適応外となります。

ー 予防的な血管内治療もあるそうですね。
中村 脳ドックなどの検診で内頚動脈の動脈硬化進行が判明した場合、狭窄と血栓の発生を防ぐため、患部にカテーテルでステントを挿入する「内頚動脈ステント留置術」を実施します。以前はメスで内頚動脈を切り開き、アテロームの溜まった内膜を剥がす「頚動脈内膜剥離術」を行いましたが、現在はカテーテル治療でも同等の効果が得られ、近年では治療の主流になりつつあります。
また、動脈硬化で狭窄した脳動脈をバルーンで広げたり、ステントを留置する血管形成術も行います。

※ 一次脳卒中センター:脳卒中急性期が疑われる患者を24時間365日で受け入れ、速やかな診断とt-PAの投与が可能な医療機関。脳卒中専門医1名以上が常勤し、脳卒中ユニット(SU)を有する。また血栓回収療法が実施できることが望ましいとされ、2021年5月現在、日本脳卒中学会により963施設と3ネットワークが認定されている。一次脳卒中センターコア施設:一次脳卒中センターのうち、血栓回収療法の診療実績が高く、血栓回収療法を実施できない施設から、適応となる患者を常時受け入れることが可能な、地域の中核となる施設。

くも膜下出血には脳血管内治療 or 開頭手術



ー くも膜下出血でも脳血管内治療が行われると聞きます。
中村 破裂した脳動脈瘤を塞ぐため、瘤にカテーテルで極細のコイルを送り込み、毛糸玉のように隙間なく埋め込む「コイル塞栓術」があります。コイルの品質が近年格段に向上し、止血効果が高まりました。
くも膜下出血の治療には、開頭し脳動脈瘤の根元を特殊なクリップで挟んで止血する「クリッピング術」も採用されます。患部の位置、血管の状態、患者さまの年齢などにより、適した方法を選んでいます。
この2つの治療は、脳ドックなどで発見された未破裂動脈瘤の予防的治療としても実施されるもの。動脈瘤は徐々に大きくなる傾向があり、くも膜下出血のリスクが高まるため、経過観察を行い、直径が5㎜を目安に施術を検討します。

ー 血管内治療も外科的治療も、どちらも受けられるのですね。
中村 当院の脳神経外科には脳卒中専門医が5名おり、全員が脳外科専門医を兼ね、かつ2名が血管内治療専門医でもあります。必要に応じてどのような手術にも対応できますし、解剖学的所見に通つうぎょう暁した上で、血管内治療も行う。高度な"ハイブリッド治療"が一番の特徴です。

ー 患者さま一人ひとりのためのオーダーメイド治療ですね。そのためにチーム医療も万全。
中村 脳卒中治療のため医師、手術室看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床工学技士がチームを組み、各職種の代表が症例ごとの検証会を実施。より迅速、安全、確実な手術を目指し研鑽を重ねています。院外にいてもMRIの画像を端末で診断できるアプリも導入され、より素早い対応が可能になりました。
加えてSCU(脳卒中ケアユニット)9床を用意しており、保存的治療として血圧管理、脳浮腫の軽減、脳保護薬や抗凝固薬の投与などを実施しながら、患者さまの病状を管理。理学療法士や言語聴覚士も参画して、超早期のリハビリテーションを始め、患者さまの社会復帰への端緒を開きます。

ー 脳卒中は、再発しやすい病気と聞きますが?
中村 脳卒中の温床となる動脈硬化は、高血圧や脂質異常症、肥満、高血糖、糖尿病、慢性腎臓病などの生活習慣病と密接な関係があります。これらの余病のある方は、脳卒中急性期の治療や回復期のリハビリと併行し、きちんと治療しなければなりません。また自宅復帰を果たすと油断しがちなので、当院では外来で定期的にフォローし、食生活や飲酒・喫煙、運動習慣の指導にも力を入れています。

ー 先端の脳卒中治療を受けて回復したからには、健康寿命を延ばす努力が大切ですね。本日はありがとうございました。

明理会中央総合病院