メディカル・ズームイン

経鼻的下垂体腫瘍摘出術
低侵襲な手術で脳腫瘍を治療

今回は「原発性脳腫瘍」についてうかがうため、高島平中央総合病院の院長で、脳神経外科を専門とする福島崇夫医師を訪ねました。
日本の年間罹患者数は10万人に約10人と少数派(大腸がんは約120人)。でも、頭痛や目のかすみなどありふれた症状で発見されることも少なくありません。良性腫瘍が7割ほどを占め、手術で摘出すれば寛解に至る例も多いといいます。いざという時あわてないために、基本情報をお届けします。

高島平中央総合病院 院長 福島崇夫 医師

  • 日本脳神経外科学会脳神経外科専門医
  • 日本脳卒中学会脳卒中専門医
  • 日本内分泌代謝学会内分泌代謝科(脳神経外科)専門医
  • 日本神経内視鏡学会技術認定医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
  • 日本頭痛学会専門医
  • 日本臨床神経生理学会認定医

内視鏡下手術が可能な「下垂体腺腫」


図1脳の断面図


図2下垂体腺腫のMRI(横から見た断面)
写真中央のグレーの楕円形が
大きく腫れた下垂体


図3下垂体腺腫のMRI(前から見た断面)
図2を前から見た断面


図4ハイビジョン内視鏡
経鼻的下垂体腫瘍摘出術に用いる

ー 先生は脳腫瘍、中でも「下垂体腺腫」の治療と研究をライフワークにしておられるとうかがいます。まず脳腫瘍とはどんな病気なのでしょうか?

福島 脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称で、各部位からさまざまな種類の腫瘍が発生します。大別すると他の臓器にできた〝がん〞から転移する「転移性脳腫瘍」と、頭蓋内で発生する「原発性脳腫瘍」の2タイプ。今日は原発性脳腫瘍のうち、発生頻度の高い「下垂体腺腫」「髄膜腫」「神経膠腫(グリオーマ)」のお話をしましょう。

ー では、ご専門の下垂体腺腫からお願いします。

福島 下垂体は脳の中央にある小指の先ほどの器官で、
さまざまな「ホルモン」を分泌しています。図1
垂体腺腫は成長が遅く、正常細胞との境目も明確。図2図3
移転もしませんので「良性腫瘍」に分類されます。
腫瘍のためにホルモンの過剰分泌が起こる①「成長ホルモン産生腺腫」、②「プロラクチン産生腺腫」、③「副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫」、④「甲状腺刺激ホルモン産生腺腫」の4つがあり、他にホルモンの異常はないものの、徐々に大きくなって周囲を圧迫する⑤「ホルモン非分泌性腺腫」もあります。

ー どんな症状が現れますか?

福島  ①の成長ホルモンは、成長期を終えた大人でも新陳代謝や傷の修復に欠かせないものですが、分泌過剰になると手足の先や顎、唇、舌などが肥大。糖尿病や高血圧を誘発します。
②のプロラクチンは母乳の分泌を促すホルモン。女性は月経不順・不妊症と乳汁分泌、男性では性欲低下や ED の原因となります。
③の副腎皮質ホルモンは、炎症や心身のストレスを鎮める物質。顔が丸くなる、体幹部が太る、毛深くなるなどの症状があり、①と同じく糖尿病や高血圧を合併しやすくなります。
④の甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を促進する働きがあります。分泌過剰になると動悸・息切れ・多汗・手指のふるえなど様々な症状が出現します。
⑤の症状は視野が狭くなる、二重に見えるなどの視覚異常と頭痛。下垂体は視神経に隣接しているため、大きくなると患者さまは物が見づらくなり、眼科を受診。
そこから脳神経外科に紹介されるケースが大半です。
脳腫瘍はMRI撮影で位置や大きさ、大まかな種類を判断することができます。

ー 治療法を教えてください。

福島 脳腫瘍治療の基本は、手術による腫瘍の摘出です。良性で自覚症状のない場合、経過観察となる例がある一方、悪性であれば術後に化学療法と放射線療法をプラスします。
下垂体腺腫では、②のみカバサール®という薬がよく効きます。週1〜2回程度の服用でホルモン値を制御でき、腫瘍も縮小。半数以上の方が数年で寛解に至ります。

ー 他は手術が必要なのですね。

福島  はい。下垂体は鼻腔の奥に位置しますから、鼻から内視鏡を挿入する「経鼻的下垂体腫瘍摘出術」が採用されます。
下垂体本来の機能を温存するため、腫瘍だけを的確に除去しなければなりません。近くに脳に栄養を運ぶ大事な内頚動脈もあり、狭い空間内で正確にアプローチするには、高度な技術が必要です。当院のハイビジョン内視鏡図4は、解像度が高く微細な組織まで視認できるので、安全に手術を進められます。
顔や頭に傷痕を残さないのも利点でしょう。

ー 根治できるのですか?

中村 7〜8割の方は寛解に至ります。ただ腫瘍が内頚動脈を巻き込んでいるなどで、微細な取り残しがあるホルモン産生腺腫では、ホルモンの分泌を抑制する薬の投与や放射線治療が必要です。また、再発率は10年で10%弱とされています。

もっとも症例が多く良性の「髄膜腫」


図5髄膜腫のMRI
上から見た断面。大脳の前頭葉を圧迫している

ー 次に髄膜腫について教えてください。

福島 脳を包む髄膜(硬膜・くも膜・軟膜)から生じる腫瘍で、原発性脳腫瘍の約25%を占め、良性に分類されます。図1図5
初期は無症状で、近年は脳ドックで発見される例が増えてきました。
脳は部位により役割が異なるため、現れる症状は髄膜腫に限らず、脳腫瘍の位置により様々です。片麻痺、失語、認知症、感覚異常、視野障害、聴力低下、めまい、ふらつきなどがあります。
このほか、腫瘍が大きくなると周囲がむくみ(脳浮腫)、頭蓋内の圧力が高まるため、頭痛、吐き気、意識障害、けいれんなどが起こるケースも(頭蓋内圧亢進症状)。また、脳内の「髄液」の還流が妨げられると、髄液が溜まる「水頭症」を発症。緊急手術が必要です。

ー 髄膜腫も症状が強ければ、手術が必要なのですね。

福島 手術用の顕微鏡下で開頭手術を行います。腫瘍と正常組織との境目がはっきりしており、摘出は比較的容易です。
髄膜腫には硬膜から動脈が伸びて栄養を運んでおり、手術時に出血しやすいリスクがあります。当院では手術の数日前に、血管撮影装置のもとで、当該の血管に塞栓剤を注入。術中出血を最小限に抑えています。

ー 血管内治療も外科的治療も、どちらも受けられるのですね。

中村 当院の脳神経外科には脳卒中専門医が5名おり、全員が脳外科専門医を兼ね、かつ2名が血管内治療専門医でもあります。必要に応じてどのような手術にも対応できますし、解剖学的所見に通暁した上で、血管内治療も行う。高度な"ハイブリッド治療"が一番の特徴です。

ー 摘出できれば安心ですか?

福島 再発率が10〜20%あります。また稀に術後の組織検査で、悪性と判明することも。それらのケースでは、放射線治療が推奨されます。IMSグループの板橋中央総合病院では、腫瘍細胞を狙い撃ちする定位放射線治療(サイバーナイフ)や、強度変調放射線治療を行っており、連携して治療を進めます。

集学的治療で取り組む 「神経膠腫」


図6神経膠腫(グリオーマ)のMRI
上から見た断面。
大脳の正常細胞に浸潤し、腫瘍との境目がわかりにくい


図7術中蛍光診断(5-ALA)
赤く光っている部分が腫瘍細胞

ー 最後に神経膠腫(グリオーマ)についてお願いします。

福島 大脳や小脳、脳幹などの「脳実質」で思考や情報伝達を担う細胞を「脳神経細胞(ニューロン)」と呼び、周りを「神経膠細胞(グリア細胞)」が守っています。神経膠腫はこのグリア細胞から発生する脳腫瘍で、脳のどこにでもできる可能性があり、症状も多様です図6
短期間に進行することがあり、正常細胞の間に浸潤するように広がるため完全な摘出が難しく、悪性に分類。複数のタイプに分けられますが、中でも3割以上を占める「膠芽種」は悪性度が高く、転移もしやすい。5年生存率が8%といわれます。

ー 治療の第一選択肢は、手術なのですね?

福島 可能な範囲で腫瘍を除去します。正常細胞を極力傷つけず、脳の機能を温存するため、手術中は周辺の神経に弱い電流を送り、反応を確かめる「術中モニタリング」を実施します。
脳細胞そのものは痛みを感じないので、一時的に麻酔を醒まして患者さまと会話をし、言語中枢の温存を確認する「覚醒下手術」を実施する例もあります。

ー 血腫瘍細胞を識別する方法があるそうですが?

中村 蛍光イメージングですね。術前に「5–アミノレブリン酸」を服用していただくと、腫瘍に取り込まれ、特定の波長の光を当てると、腫瘍細胞だけが赤色に光ります図7。腫瘍の摘出率が改善したという報告があります。

ー 術後には放射線療法と化学療法が行われるのですね?

福島 たとえ悪性でも、二つを上手く組み合わせれば、確実に生存期間を伸ばせます。手術中に腫瘍を除去したあとの腔に留置するコイン状の薬剤「ギリアデル®」は、徐々に放散され、腫瘍細胞の増殖をストップ。ほかに抗がん剤や分子標的薬で効果の高いものがあります。医学の進歩は日進月歩。当院は患者さまと二人三脚で、根治に向け力を尽くしていきます。

ー ありがとうございました。

血管撮影と脳血管内治療

脚の付け根の動脈からカテーテルを脳の病変部に送り込み、血管撮影室(アンギオ室)で連続的なX線透視を行うと、脳血管の正確な検査や血管内治療を行うことができます。
特に脳卒中のうち、脳梗塞では血管に詰まった血栓の機械的回収術を、くも膜下出血では、破裂した脳動脈瘤を塞ぐコイル塞栓術を実施。
当院はその実績を高く評価され、日本脳卒中学会から「一次脳卒中センターコア施設」の認定を受けています。近隣の病院から、24時間365日、血栓回収術の適応となる患者さまの受入れが可能。発症後の集中治療を行う「SCU(脳卒中ケアユニット)」も7床完備して、地域の救命医療に尽くしています。

高島平中央総合病院