メディカル・ズームイン

脊椎内視鏡下手術で早期社会復帰を

脊椎脊髄疾患の中でも患者数の多い腰部椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症。低侵襲な内視鏡下手術が注目を集めています。
山崎院長は、神奈川県で7人しかいない脊椎内視鏡下手術・技術認定医。第一人者として、安全・安心な医療提供に尽力しています。

東戸塚記念病院 院長、整形外科、人口関節センター 山崎 謙 医師

  • 日本整形外科学会専門医
  • 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
  • 日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技術認定医(2種・後方手技)
  • 日本整形外科学会認定スポーツ医
  • 日本整形外科学会認定リウマチ医
  • 日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会脊椎脊髄外科専門医
  • 日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
  • 日本リウマチ学会専門医

椎間板ヘルニアの内視鏡下手術は働き盛りの救世主

ー 先生は昨年3月に「日本整形外科学会認定・脊椎内視鏡下手術・技術認定医」になられたとうかがいます。神奈川でたった7人という難しい資格なのだとか。

山崎 はい。「脊椎」とは背骨のことで、中には脳と全身を結ぶ大切な中枢神経=「脊髄」が通っています。脊髄は末梢へと細かく枝分かれして、脳からは体を動かし、内臓や循環器をコントロールする命令を伝達。一方、抹消からは痛い、熱い、かゆい、しびれるなどの感覚を脳に伝えます。従って脊椎に異常が起こると、脊髄を圧迫することが多く、腰が痛い、臀部や脚がしびれる、重だるい、スムーズに歩けない、細かい手作業が苦手になるなどの困った症状が表れます。
 脊椎・脊髄はとてもデリケートな器官ですから、疾患の治療には整形外科医として十分な経験が必要です。また、ハイレベルな技術を習得しなければ、手術、中でも最新の内視鏡下手術を行うことはできません。

ー 具体的には、どのような疾患が多いのですか?

山崎 代表的な疾患は「腰部椎間板ヘルニア」と「腰部脊柱管狭窄症」でしょう。脊椎は約30個の椎骨が連なって形成されており、椎骨と椎骨の間にはクッション役となる軟骨組織=椎間板が挟まっています。
 この椎間板の一つが飛び出し、近くの脊髄を圧迫するのが腰部椎間板ヘルニアです。"ヘルニア"とはラテン語で"飛び出た"という意味。働き盛りの方に多く、激しい腰痛や神経痛に襲われ、慌てて来院されます。重いものを持った弾みで起こる例もありますが、多くは脊椎を内側から支える靭帯が弱り、椎間板の中のゼリー状の「髄核」が徐々に膨らんだり脱出したりして、ヘルニアになる例が多いですね。その刺激で、脊髄から分岐した神経根が腫れと炎症を起こし、痛みの原因となります。

ー 治療法は?

山崎  約8割の方は、安静と消炎鎮痛薬(主に非ステロイド性抗炎症薬=NSAIDs)の処方、理学療法士による運動療法で、2ヶ月ほどで改善します。髄核も少しずつ小さくなる例が多いですね。
一方、回復が遅い、痛みが耐えがたい、仕事を長期間休めないといった2割の患者さまには、まず「神経ブロック」治療を提案します。これはレントゲン透視下で、炎症を起こしている神経根に、局所麻酔と抗炎症作用のあるステロイド薬を注射するもの。即効性があり、2週間空けて2度行う人もいますが、8割の方は落ち着きます。

ー それでも改善しない場合は、手術が必要になるんですね?

山崎 難治性の方、再発を繰り返す方は手術を検討します。
 また発症後、足に力が入らない、尿や大便が出にくいといった症状のある患者さまは、ヘルニアのために脊髄の損傷が進む可能性がありますから、すぐ手術になります。


腰部椎間板ヘルニア手術前

手術後のMRI画像

ー 手術について教えてください。

山崎  従来は、背中を4cmほど切開し、筋肉を剥がして脊椎を露出させ、椎骨の一部を削った上で、椎間板のヘルニア部分を切除する「ラブ法」が主流でした。

 私が実施する内視鏡下椎間板摘出術(MED=Micro Endoscopic Discectomy)では、金属の筒(レトラクター)を背中から患部に挿入。そこからカメラと骨を削るドリル、鉗子などの手術器具を入れ、ヘルニアの切除を行うものです。
 背中の切開は2cm未満で筋肉は十分温存でき、椎骨の削除も最小限。出血も術後の痛みも少なくて済みます。

ー 体に優しい手術ですね。

山崎 モニター上に、拡大した視野で明るい画像が得られますから、ヘルニアも、周りの神経や血管もしっかり把握できます。手術時間は1時間ほど。患者さまにも医師にも、メリットはとても大きい。

ー 安全性も高いのですね。

渡部 当院では、さらに安全性向上のため、病態に応じて「O-arm®︎」による「ナビゲーションシステム」も併用しています。ヘルニアは横に出っ張っているタイプばかりではなく、垂れ下がったり、上の椎骨に貼りついたりと、複雑なケースもあるんですよ。
 O-arm®︎は手術室に整備した移動式CT撮影装置。手術器具に位置情報を得るためのアンテナを装着しておき、赤外線監視カメラを介して、O-arm®︎で得られたリアルタイムの3次元画像と照合。ヘルニアを安全・確実に除去するための位置や角度を特定し、手術のプロセスを、モニター上で正確にナビゲーションしていきます。


背骨(脊骨)の構造と腰部椎間板ヘルニア

低侵襲な腰部脊柱管狭窄症の内視鏡手術は高齢者も安心


腰部脊柱管狭窄症の内視鏡下手術MEL


O-arm®︎(オーアーム)

ー 医療現場は日清月歩!一般に背骨の手術は怖い、というイメージがありますが、これなら安心して受けられますね。続いて腰部脊柱管狭窄症についても教えてください。

山崎 脊髄が通っている脊椎のトンネルを「脊柱管」といい、加齢とともに椎骨や椎間板の変性・変形、靭帯の肥厚などが進み、脊柱管が狭くなる疾患です。生まれつき脊柱管が狭い方もいらして、わが国の患者数は500万人を超えるという推定データがあります。

主に臀部から脚へとのびる神経の根元が圧迫されるため、しびれと痛みが起こり、休み休みにしか歩くことができない「間欠性跛行」が典型的な症状です。

ー 鎮痛消炎剤の服用や貼付で治まりますか?

山崎 加齢に伴い進行するので、一時しのぎにしかなりません。座ったり横になったりしていると症状が出ないので、恒例の方はだんだん家に引きこもってしまいがち。すると足腰の骨や筋肉が弱っていき、介護が必要となるなど、健康寿命を損ねることになります。
 私は近所の買い物が辛くなったら、手術をおすすめします。もし、排便排尿障害が表れたら、急いだ方がよいでしょう。


ナビゲーションシステムのモニター画像

脊椎内視鏡下手術・技術認定医の認定証
ー こちらも内視鏡下手術で治せるのですね?

山崎 こちらはMEL(Micro Endoscopic Laminectomy)と呼ばれる内視鏡下手術です。事前にMRI撮影を行うと、狭窄部位が複数箇所見られる例が多いのですが、症状を引き起こすのはそのうちの1ヶ所とされます。前出の「神経根ブロック」注射を打ち、痛みが治まれば、その病変部がターゲット。しっかり確認したのち、内視鏡下手術に入ります。
腰部椎間板ヘルニアと同様、レトラクターを挿入。椎骨の一部に穴を開け、患部にアプローチします。たいがい靭帯などが脊髄を左右から取り巻くように圧迫しているため、安全を期して、O-arm®︎とナビゲーションシステムの併用が原則です。丁寧に除去する必要があり、手術は2時間以上かかる場合があります。


腰部脊柱管狭窄症の原因

椎間板ヘルニア摘出の内視鏡画像

内視鏡下椎間板摘出術 MED
ー 入院期間はどのくらいですか?

山崎 早いと翌日、長くても1週間ほどです。出血も感染リスクも少なく、麻酔が覚めると、痛みがほとんど消えているので皆さんびっくりされますよ。翌日にはベッドから起き上がって歩くことが可能です。
 腰部脊柱管狭窄症は、また別の狭窄部位が原因となって再発することがありますが、MELは低侵襲手術ですから、患者さまは積極的に2度目の手術を望まれます。

ー 高齢の患者さまでも、内視鏡下手術なら安心ですね!

山崎 内視鏡下手術のもう一つの利点は、周辺組織への負担が少ないこと。従来の切開手術では、術後に筋肉や靭帯などの組織が癒着や拘縮を起こすため、再手術が困難になります。将来的に別の脊椎脊髄疾患を発症する可能性はゼロではありませんから、低侵襲な治療で、体のコンディションを極力温存することも、我々整形外科医の務めです。

ー 患者さまの人生を見守っておられるのですね!本日はありがとうございました。

東戸塚記念病院