メディカル・ズームイン

救命救急医療を通じ地域に安心を届ける「救急総合診療科」

板橋中央総合病院の救急総合診療科は、救急と総合診療の医師がタッグを組んで救急搬送される患者さまを受け入れます。臨機応変の蘇生処置はもちろん、急性疾患の背後に複数の病気が隠れていれば迅速な診断と丁寧な治療を提供。入院中のリハビリテーションや退院後の療養環境までトータルに患者さまを支援します。米沢光平部長と安本有佑医長が詳細を語ってくれました。

医師紹介

板橋中央総合病院
救急総合診療科診療部長
米沢 光平 医師

  • 日本救急医学会救急科専門医、日本DMAT隊員

板橋中央総合病院
救急総合診療科医長
安本 有佑 医師

  • 日本専門医機構 総合診療専門医
  • 日本病院総合診療医学会認定医、日本内科学会認定医
  • 総合診療専門研修プログラム特任指導医

24時間365日、断らない医療で様々な疾病に対応

板橋中央総合病院の「救急総合診療科」は2024年2月、診療科の一部組織変更を経てリスタートしたと伺いました。従前の総合診療内科が2つにわかれ、1つが「総合内科」、もう1つが米沢先生率いる救急部門と統合し、この「救急総合診療科」へと発展したのですね?

米沢はい。所属医師の専門領域を例に挙げれば、部長の私が「日本救急医学会救急科専門医」、医長の安本は「日本専門医機構 総合診療専門医」。互いの利点を生かしながら、地域の二次救急として、救命医療に尽くしています。

24時間365日、年間ベースで1万件以上の救急車を受け入れ、約1万8千5百人の救急患者さまを診察(2023年度時点)。2024年12月1日には、東京都地域救急医療センターの指定を受けたとも伺いました。1日平均30件とは、まさに息つく暇もありませんね。

米沢救急部門は一義的に急病、外傷、中毒など疾病の種類に関わらず、搬送された患者さまの初期医療を担当します。その多くはいわゆる〝一見さん〞。既往歴や服薬履歴などの情報が不十分な中、瞬時に重症度を見極め、臨機応変な検査と処置で容態を安定化させます。目の前の症状だけに捉われず、臓器横断的な診断で最適解に至るには、幅広い知識と経験が欠かせません。
幸い当院は36の診療科、19の特診外来、10の専門センターを擁する総合病院です。多くのスペシャリストの有する専門的な医療資源を、我々は「ジェネラリスト」として〝横串〞を通して連携することで、患者さまに必要なサービスを実現していきます。

救急総合診療科には何名のスタッフが在籍しているのですか?

安本医師が9名。来年度は4名増員予定です。救急外来の看護師は18名、救急救命士が3名在籍しています。複数の急患が入った場合は重症度をトリアージしたり、同時に患者さまに対応するマルチタスクが必要となります。医療従事者として研鑽を積むことができる現場です。
入院病棟では薬剤師やリハビリセラピスト、病棟看護師、医療ソーシャルワーカーなど多職種が加わり、チーム医療を実践しています。

寒い季節は、脳卒中や心筋梗塞の患者さまも多いのではありませんか?

米沢東京都保健医療計画などに基づき、脳卒中急性期医療機関リストや、急性心血管疾患(急性心筋梗塞や大動脈解離など)に迅速対応するCCUネットワークシステムに登録され、消防庁救急隊とも連携して受け入れ体制を整えています。当該疾患が強く疑われれば、循環器内科や心臓血管外科、脳神経外科、脳神経内科の出番ですね。各診療科とも我々と共に夜間・休日の当直を担っています。

安本小児科、産婦人科など急患の多い診療科も救急医療に参画しています。当院の救急総合診療科の特徴は、これら専門の診療科だけでは解決できない患者さま個別の事情にも配慮し、退院後の生活支援につなげることといえるでしょう。

具体例で教えていただけますか?

米沢20代の男性がバイク事故で骨折した、30代の女性が急性虫垂炎を発症したという症例なら、疾病が治癒した時点で完結します。しかし救急の現場では多疾患を併存した高齢者が急速に増えているのが実情です。
転んで大腿骨近位部(足の付け根)を骨折し搬送された高齢女性がいたとしましょう。患部の手術は整形外科医が担当しますが、我々は転倒の原因から検証します。足元がふらつくパーキンソン病や正常圧水頭症が隠れていないか? 糖尿病に伴う低血糖症状ではないか? 骨密度が低下する骨粗しょう症に罹患しているなら、その治療も必要になります。

安本総合診療専門医は、救急科専門医同様、個別の臓器を診るのではなく患者さまを一人の人として診るのが鉄則です。併存疾患があるなら、優先順位を考慮して治療計画を立てる。同時にリハビリセラピストと協働しリハビリテーションを進める。
退院後、介護の必要性が予見される時はご家族と相談し、ソーシャルワーカーを交えた福祉制度との連携支援も役目です。

米沢救急で受け入れた方を、以前と変わらず元気に社会生活を送っていただけるようにすることが救急総合診療科のモットーです。
退院後も治療が必要な時には当院に通っていただいたり、かかりつけ医に診ていただいたりします。また訪問診療医を紹介する場合もあります。

安本肝硬変で意識障害をきたした患者さまの背景にアルコール依存症がある場合はそこにも介入する必要があるので、精神科医療や近隣の自助グループにつなげています。

地域に根差した安心の医療を目標としているのですね。

米沢評判がよいのは当院所有の救急車2台を使った「お迎えサービス」です。老人ホームなどの介護施設や地域のクリニックなどから、容態が悪化し急遽受診したい旨の相談があった場合、必要に応じて救急救命士や医師、またはその両方が同乗し現地に急行します。おおむね年間500回出動。東京消防庁への救急車要請はひっ迫していますから、補完する上でも有意義でしょう。

救急救命士とは、医師の包括的・具体的指示のもとで救急救命処置を行う国家資格ですね。

米沢当院には3名が所属し、院内外でフットワーク良く働いています。一般には地域の消防署で活躍する救急救命士がおなじみでしょう。救急救命士はスキルアップのため、定期的な病院研修が義務付けられており、当院でも積極的に受け入れています。地域の救急医療の担い手同士、コミュニケーションを密に図ることは大切です。要望に応じた医療講座も開きたいと思っています。

患者さまの人生に 向き合う医療の真髄

医療現場の中でも救急総合診療科は人の生死とダイレクトに関わる例が多いかと存じます。エピソードがあればお聞かせください。

安本交通事故で首から下のまひの後遺症のある患者さまが、重症の肺炎で緊急入院し人工呼吸器の装着となりました。できる限りでの治療を継続しましたが、救命することは難しいと判断し、最期の時間をどのように過ごしたいか相談したところ、ご本人もパートナーも最期は自宅で迎えたいと強く希望されました。訪問診療医との連携の下、酸素を用意し当院の救急車で帰宅。パートナーと一緒に趣味のフィギュアに囲まれたご自身の部屋で看取りとなりました。
その後気にかかったのは残されたパートナーのメンタルヘルスです。グリーフケア(死別による喪失感と葛藤を見守り、立ち直りを援助するケア)の必要を感じ、私たちの外来に通っていただきました。

米沢近年、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)が重要視されています。ご本人、ご家族、医療・ケアチームが集い、終末期医療を含め、これからの生き方を話し合う「人生会議」です。
ご危篤の高齢者が救急搬送されたとき、蘇生・延命に尽くすか、積極的治療を差し控えるか、ご本人の意思確認ができない状態でも、ご家族間でACPが共有されていれば、医療機関は治療方針を明確に提案することができます。
問題は身近に親族のいない独居の高齢者を受け入れた時です。

安本スタッフが遠方の親族、大家さん、友人などと連絡をとり、ご本人の人柄や人生観など可能な限り情報を集めます。その上でこの患者さまならどんな選択をするか? 医療従事者が一方的に決めるのではなく、本人ならどう考えるかを多職種で推察し、方針を決定します。

救急医療の現場がそんな奥深いものとは知りませんでした。

安本医療従事者は、時に患者さまやご家族に辛い告知をしなければなりません。米国の緩和ケア専門医らを中心に作成された「バイタルトーク」というコミュニケーショントレーニングがあります。混乱の中で患者さまやご家族の本音に寄り添い、将来のビジョンを一緒に考えるプロセスなのですが、日本では「かんわトーク」として広まっており、総合診療プログラムのスタッフは必須受講としています。

救急総合診療科は自分にとって納得のいく医療の入り口なのですね。在宅医療を望めば応援してもらえるし、福祉との橋渡しもお願いできる。安心しました。

グラフ①

グラフ②

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医師と看護師での救急の申し送り

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板橋中央総合病院が所有する救急車で患者さまのお迎えに行く「お迎えサービス」

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救急搬送された患者さまの胸部X線画像を確認する米沢医師(左)と安本医師(右)

板橋中央総合病院