突撃!!イムス探険隊

脳腫瘍・脳内疾患に特化した定位放射線治療装置
放射線治療機器「ZAP-X®」始動

日本に3台しかない「ZAP-X®︎」で脳腫瘍を狙い撃ち

最先端のがん放射線医療を網羅的に提供する新松戸中央総合病院『新松戸高精度放射線治療センター( SMARTトセンター)』。2024年9月から、主に脳腫瘍に特化した国内稼働3台目となる「ZAP-X®︎ラジオサージェリーシステム」による高精度定位放射線治療がスタートしました。
宇宙船を思わせる斬新なフォルム。自己遮蔽型で放射線が漏れる心配がないため、医療スタッフはガラス窓を隔てた操作室から治療を見守ることが可能。小型リニアック(電気的にX線を発生させる直線加速器)1台を装備した内部の円形ドームは、地球ゴマのように2軸回転するため、放射線ビームを自在な角度・方向から患者さまの頭部に照射できます。
伊丹純センター長の片腕として、治療計画作成を担う医学物理士の成田雄一郎氏は「最大の利点は腫瘍の中心部をわずか0・5㎜のピンポイントで捉える精度の高さです。脳の神経細胞はあらゆる生命活動を担っており、腫瘍周辺の正常細胞への照射は限りなくゼロに近づけたい。他の定位放射線治療機器の精度は概ね1㎜なので、安全性は群を抜いています」
おかげで1度に20グレイという高線量の照射も可能になり、2㎝以下の腫瘍なら治療回数は1度で済むといいます。
もう一つ見逃せないのが画像追尾機能。治療前に撮影した頭部CTとMRI画像を元に組み立てた治療計画を正確に実行できるよう、ドーム内では数十秒毎にX線撮影を実施。双方の頭蓋骨の画像を照合し、常に腫瘍が狙った位置に来るよう、寝台がミリ単位で動いて自動補正してくれます。
「患者さまの正しい位置を維持するため、頭にフレームピンを刺し固定する治療機器もありますが、ZAP|XRは網状のマスクをかぶるだけ。低侵襲です」(成田)
電気的に発生させるX線を使う機器なので、線源に高額で管理の厄介な放射性同位元素を補充する必要がないことも利点です。

ガラス窓越しに見える寝台にファントム(模型)を乗せ、照射シミュレーションを行う。計測器で測った線量が、パソコン画面上に刻々と表示される

寝台が引き出された状態。ドーム内のリニアックが自在に動き、数百方向から放射線ビームが腫瘍に1点集中で照射される。1本1本のビームは低線量のため、腫瘍周辺組織への影響は最小限

患者さまの頭を固定するため、寝台上でかぶるメッシュのマスク。事前に製作し、一人ひとりに合わせてオーダーメイド。
圧迫感が少なく呼吸も快適

治療計画の打ち合わせをする
伊丹センター長(右)と成田医学物理士(左)

脳腫瘍に加え、三叉神経痛など良性疾患の治療にも活躍

脳腫瘍は肺がん、乳がん、大腸がんなど他臓器から転移する「転移性脳腫瘍」と脳内から発生する「原発性脳腫瘍」の2種類。
伊丹センター長は「原発性は一部良性腫瘍がありますが、症例の多い転移性は、正常組織との境目が不分明、同時多発的に発生しやすく進行が早いなど悪性腫瘍です。部位によって手術は極めて困難。加えて脳は異物の流入を防ぐため、血液と脳の間にバリア(血管関門)があり、抗がん剤の効果が限定的になりがちです」と語ります。
その弱点をカバーするのが放射線治療。周辺組織の温存を図る単独照射、腫瘍を縮小させる術前・術後照射、抗がん剤と組み合わせる化学放射線療法など展開は多彩。
「ZAP-X®︎の定位放射線治療適応は基本的に3㎝以下・10ヵ所以内の脳腫瘍。2㎝以下なら1回、3㎝までなら3~5回の分割照射です。がん細胞を高線量で確実に叩けますから、高い治療成績が期待できるでしょう」(伊丹)
適応外の脳腫瘍には、汎用性の高い治療機TrueBeam(トゥルービーム)による全脳照射で寛解を目指します。
「放射線治療は、脳腫瘍と脳浮腫による頭痛、吐き気、麻痺など辛い症状を和らげる緩和治療としても有効。がんに立ち向かう患者さまのQOLを守ります」(伊丹)
現在ZAP|XRの症例は転移性脳腫瘍のほか、良性の髄膜腫、下垂体腺腫、聴神経腫瘍など。さらに三叉神経痛や脳動静脈奇形の治療でも健康保険が適用されます。
「照射口のコリメータで放射線ビームの細さは8段階に調整可能。脳深部の繊細な三叉神経をピンポイントで狙い撃ち、患者さまを長年苦しめた激痛から解放することができました」(成田)
他にてんかんやパーキンソン病、本態性振戦、ジストニアなど脳内で症状を引き起こす部位が特定されている疾患の治療に活用できると期待されています。

症例1 転移性脳腫瘍に対するZAP-XⓇによる定位放射線治療計画

比較的腫瘍が大きいので、3回に分けて治療を行う。大きさの異なる円形ビームを組み合わせることで不整形な腫瘍に放射線を集中させる

治療計画は、腫瘍領域の同定精度を向上させるため、事前検査で撮影されたCT画像とMRI画像を重ね合わせて作成されている

照射するビームの3Dデータ。2π方向からのビームの焦点位置をずらしながら、また円形ビームの太さを調整しながら不整形な腫瘍に放射線を集中させている

症例2 三叉神経痛に対するZAP-XⓇによる定位放射線治療計画

三叉神経は顔面の感覚神経で、脳深部の脳幹近くにあり、文字通り3本に分かれ、顔の上部・中部・下部を司っている。三叉神経痛は隣接する微細血管が三叉神経を圧迫することで起こり、しゃべる・食べるなど日常生活動作を引き金に激痛発作に見舞われる。この治療では三叉神経の分岐手前部位をピンポイントで狙い、中心に90グレイ相当の線量を集中させ寛解に導く。放射線治療では最も線量が多い治療の一つ

上記三叉神経に対する照射ビームの3Dデータ。ZAP-XⓇは照射口のコリメータでビームの細さをコントロールし最適化できる。この治療では中心の1点にΦ4mmの極細ビームを集中させる。極めて繊細な脳神経をターゲットとできるのは、高精度なZAP-XⓇの特徴

Staff Voice

術前のシミュレーションで放射線量を計測し万全に

センター長
伊丹 純
医師
当院ではすべての放射線治療を実施する前に、寝台にファントム(模型)を置いてシミュレーションを実施します。治療計画通りの位置、角度、線量で放射線照射ができているか検証し、安全・確実な治療を担保するのです。
ZAP-X®︎は新しい機種ですから特に入念に行っており、その精度の高さは目をみはるレベル。脳腫瘍以外の脳疾患治療にも新たな可能性が広がります。期待してください。

安心して治療を受けられるようどんな質問にも答えます

医学物理室長
成田 雄一郎
医学物理士
ZAP-X®︎の内部空間は、体感でMRIの2倍ほどあり、さほど圧迫感はありません。ほのかに明るく、患者さまとスタッフはマイクを使ってコミュニケーションが可能です。ただリニアックが頭の周囲をぐるぐる動いているので、見続けていたら目が回ることもあります。治療時間が1時間を超える症例もありますから、リラックスして受けていただけるよう好みの音楽を流す工夫をしました。疑問点は何でも遠慮なくお尋ねください。

新松戸中央総合病院