メディカル・ズームイン

「血栓回収療法」と「フローダイバーターステント治療」
チーム医療で迅速かつ高度な脳卒中治療

脳卒中治療のエキスパートとして定評のある横浜新都市脳神経外科病院。急性脳梗塞に卓効を示す機械的血栓回収療法や、くも膜下出血に対するコイル塞栓術など低侵襲なカテーテル治療の実績は、全国トップクラス。今回は森本将史院長に、「血栓回収療法」と最新の未破裂動脈瘤治療「フローダイバーターステント治療」について教えていただきました。

横浜新都市脳神経外科病院 院長・脳卒中センター長 森本 将史 医師

  • 日本脳神経外科学会専門医・指導医・代議員
  • 日本脳卒中学会専門医・指導医・評議員
  • 日本脳卒中の外科学会認定指導医
  • 日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医
  • 身体障碍者認定指定医(肢体不自由)
  • 日本神経救急学会評議員

迅速な脳卒中治療で地域住民の救命に寄与

C ステント法によりからめとられた血栓

D 吸引ポンプ法で吸引した血栓

ー 横浜新都市神経外科病院のモットーは「断らない医療」。2022年は7千件を超える救急車を受け入れ、中でも「脳卒中疑い」は1249件とうかがいました。横浜市には8件しかない「一次脳卒中センターコア施設」の認定医療機関でもあり、地域の信頼を集めていますね。

森本 「脳卒中」は脳血管が破れる「くも膜下出血」「脳出血」と脳血管が詰まる「脳梗塞」の三疾患の総称です(A・B)。特に脳卒中の7〜8割を占める「脳梗塞」は詰まった病変部から先に血流が届かず、短時間に神経細胞が壊死してしまう一命をとりとめられるか、身体の麻痺や高次脳機能障害などの後遺症を残さずにすむか、予後はひとえに迅速な診断と的確な治療にかかっています。
当院は脳卒中チームを組織し、徹底したプロトコルの改善とトレーニングによって、搬送から治療開始まで20分台を実現しました。一般的な医療機関では60分かかるとされています。

ー 具体的には、どんな検査と治療が行われるのですか?

森本 まずMRI撮影で、急性脳梗塞の所見の有無、血管閉塞の有無と部位、出血の有無と程度などを素早く確認します。高性能の3テスラMRIを含む3台が24 時間365日スタンバイしていて、患者さまを待たせることはありません。
たとえば急性期脳梗塞の診断でポイントになるのは、①まだ壊死にいたらず、血流再開で救える神経細胞(ペナンブラ)が十分に存在するか。②血栓が詰まっている血管に、カテーテルを通す太さがあるか、の2点です。脳を救えると診断されれば、隣のカテーテル室(血管撮影室)にすぐ移動し、カテーテル治療に入ります。

ー 「機械的血栓回収療法」と呼ばれる治療ですね。

森本 はい。足の付け根の動脈からカテーテルをレントゲンの透視下で脳の血管まで誘導し、脳血管の閉塞部位に血栓を除去する器具を送り込みます。血栓をからめとるステント法(C)と吸引ポンプ法があり(D)、病状に応じて単独または併用で血流の再開を図ります。
症例によっては、太い血管が閉塞しても、その虚血領域の周囲から血流を補う「側副血行路」が発達してきて長時間ペナンブラを維持する例もあるので発症後24時間以内なら救命の可能性があります。
発症後4時間半以内であれば、静脈注射で血栓を溶かす薬(t‐PA)を併用する場合もあります。「t‐PA療法」も「機械的血栓回収療法」もその有効性は世界的なエビデンスとして実証されています。

ー こちらでは何人の方がこの治療を受けているのですか?

森本 2022年は162例でした。血流再開直後に運動麻痺や言語麻痺が改善し、手術台で受け答えができるようになる方もいらっしゃる。医師にとってもドラマティックな治療ですね。脳梗塞の患者さまの受診も全体で800人を超え、関東圏で1位でした。

ー くも膜下出血について教えてください。

森本 「脳出血」は脳実質内の出血ですが、「くも膜下出血」は脳実質外の隙間(=くも膜下腔)で脳動脈のコブ(脳動脈瘤)が破れる疾患です。破裂した動脈瘤は一時的に血のかさぶたで出血は止まりますが、極めて再出血しやすいために、一刻も早く再破裂予防の外科的治療が必要です。

ー 治療法について教えてください。

森本 血管内カテーテル手術と開頭手術の2通りの治療があります。
「血管内カテーテル手術」はレントゲン透視下で足の付け根から頭の血管にカテーテルを誘導し、動脈瘤内に極細コイルを送り込むことで動脈瘤内の血流を血栓化させる「コイル塞栓術」。そして「開頭手術」は頭蓋骨を局所的に外して、脳の隙間を経て動脈瘤に到達し、動脈瘤の根元を特殊クリップで挟んで出血を止める「クリッピング術」です。
当院には脳神経外科専門医8名と脳血管内治療専門医7名(一部重複)が勤務しており、患者さまの病態や動脈瘤の形状、場所、大きさに応じて、「カテーテル手術」と「開頭手術」のどちらの方法が〈シンプルで安全な方法か〉を判断し、最適な術式を提供する〝ハイブリッド医療〞を実践しています。

ー 脳内出血は?

森本 脳実質内の細い血管が破れて血腫で脳がダメージを受けます。血腫が大きい場合は、周囲への圧迫が大きくなり生命にかかわるので、血腫除去術が必要です。以前は大きく骨を開ける開頭手術が主流でしたが、近年は頭蓋骨に小さい穴を開け、細い管で血腫を吸引する内視鏡的血腫除去術が主流で、低侵襲化が進んでいます。

ー 急性期脳卒中治療を専門に担うSCU(脳卒中ケアユニット)が国内最大級の24床ありますね。

森本 患者さま3名に看護師1名を配し、万全の医療を提供します。理学療法士や言語聴覚士が超早期リハビリを実施して、ADL改善と社会復帰の端緒を開くことも大事な役目。SCUでの治療は、一般病棟での治療と比較して、明らかに「死亡率減少」「自宅退院率増加」「退院後のADL向上」がエビデンスとして示されており、ガイドラインでも〈グレードA〉として強く推奨されています。近い将来に30床まで増床予定です。
またSCU以外にも、継続的なリハビリが必要な患者さまに対して、回復期リハビリテーション病棟60床が併設されていることも、当院の大きな長所です。

知っておきたい脳卒中の予防的治療

E ステント留置術

F 頚動脈内膜剥離術

クリッピング法
開頭手術で行うクリッピング法。脳動脈瘤の根元を、特殊なクリップで挟み、止血する。瘤が破裂し、くも膜下出血を起こしている場合のほか、未破裂脳動脈瘤に対する予防的治療でも行われる

コイル塞栓術

カテーテル治療で行われるコイル
塞栓術。極細のコイルを瘤に挿入し、くるくると丸めて出血を防ぐ

フローダイバーターステント治療
未破裂脳動脈瘤に対して行われるフローダイバーターステント治療。 左:治療前の脳動脈瘤 中:瘤のある血管に、細かい網目のステントをカテーテルで挿入・留置 右:半年後の血管。血流が途絶えた瘤内は、徐々に血栓化し、やがて水分が抜けてぺしゃんこにしぼみ、無害化

ー 脳卒中を予防する治療はないのでしょうか?

森本 脳卒中の中でも致死率の高いくも膜下出血は、最大の原因である脳動脈瘤を事前に発見し、治療することで予防が可能です。
ただ未破裂脳動脈瘤は原因がよくわからず、自覚症状もありません。頭痛やめまいの診療でMRI撮影を受け、偶然見つかる例もありますが、脳ドックを積極的に受診してほしいですね。徐々に大きくなる傾向があり、5ミリを超えると外科的治療が推奨されます。

ー 前出のコイル塞栓術と、クリッピング術ですね。

森本 加えて当院では最新のカテーテル治療「フローダイバーターステント」を行っています。対象となる部位は限定されており、大きさも5ミリ以上の未破裂脳動脈瘤だけです。動脈瘤のある正常血管に、極めて細かい網目状のステントを留置することで、瘤内への血流を抑制。うっ滞した血液は瘤内で徐々に血栓化し、半年〜1年後には水分も抜けて周辺組織に同化します。
コイル塞栓術と異なり、血管壁が薄くなった瘤そのものに触れる必要がなく、より低侵襲です。

ー その間、患者さまは普通に日常生活が送れるのですね。

森本 はい。ただ初期はステントの内側に血栓ができやすいため、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)を半年〜1年ほど服用していただきます。やがてステントの内側には正常血管と同様の内膜が張り巡るので、薬は不要に。MRI撮影で経過を観察・確認します。

ー デメリットはありますか?

森本 ステント内側に内膜が張ってくるまで、薬を服用していても血栓が出来て脳梗塞になることが稀にあること。あとはステントを留置しても必ずしも血栓化するとはいえず、1年後に効果が確認できるのは85%とされます。その場合は瘤の破裂リスクがありますので、もう1枚フローダイバーターステントを重ねて留置したり、場合によっては開頭手術を検討することになります。

ー フローダイバーターの実績数はどのぐらいですか?

森本 2022年の未破裂動脈瘤に対するカテーテル治療は109例。うちフローダイバーターは42例で、やはり関東圏ではトップクラスです。

ー ほかにも予防的な治療はありますか?

森本 脳に血液を送る頸動脈(首の動脈)の内側にコレステロールが集積し(プラーク)内腔が狭くなる頸動脈狭窄症は、その部位からコレステロールの破片や血栓が脳に遊離することで脳梗塞を引き起こす原因になります。
頸動脈の狭窄部に足の付け根からカテーテルを誘導し、狭窄部位をステントで拡張するステント留置術(E)と、頸動脈を直接切開してプラークを除去する頸動脈内膜剥離術(F)があります。
他にも脳血管の狭窄した部位にカテーテルを誘導して風船で拡張させたり、皮膚の血管を脳の表面の血管につないで脳の血流を増加させるバイパス手術など、さまざまな治療を行うことで脳卒中を予防しています。

ー そのためには、定期的に脳ドックを受診すると安心ですね。

森本 脳ドックのほか、セカンドオピニオン外来も設けています。脳疾患に関する不安や疑問のある方は、ぜひご相談ください。

ー 本日はありがとうございました。

横浜新都市脳神経外科病院