2022年11月に、新築移転・大幅増床した三愛会総合病院。埼玉東部地区の中核病院として責任も重くなりました。
新院長に着任した遠藤慎治医師は、がん薬物療法のスペシャリスト。急性期医療と救命救急医療の拡充に加え、がん治療の刷新を図ります。
今後の抱負をうかがいました。
地域が求める確かながん治療を提供
三愛会総合病院 院長 遠藤 慎治 医師
- 医学博士
- 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医
- 日本消化器病学会専門医・指導医・関東支部会評議員
- 日本肝臓学会専門医・指導医(暫定)
- 日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・関東支部評議員
- 日本膵臓学会認定指導医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 緩和ケア研修会修了、日本医師会認定産業医
- 臨床研修指導医
- 国際膵臓学会、日本癌学会、日本癌治療学会
- 日本胆道学会、日本消化管学会
- 日本ハイパーサーミア学会、日本糖尿病学会
新築・移転・拡張を契機に総合力をUP
ー 三愛会総合病院は、2022年11月に新築移転・拡張しました。敷地面積は旧病院の3倍。96床の増床で274床となり、埼玉県三郷市の中核病院として、地域の期待が高まっています。遠藤先生は移転と同時に院長に就任されていますが、改めて今後のビジョンをお聞かせください。
遠藤 リニューアルオープンから9ヵ月。標榜する診療科は7つ増えて25になり、幅広い領域で急性期医療を拡充していきたいと考えています。救命救急医療も病院の柱とするつもりです。県道76号線に面し、交通アクセスの要衝に立地しますから、三郷、吉川、草加、越谷など埼玉東部地区からの救急搬送要請は増えていくでしょう。一刻を争う外傷、脳血管障害、心疾患など患者さまの命を守る最前線に立たねばなりません。地域の医療・介護施設とも連携を深めていきます。
ー まずは整形外科や循環器内科、脳神経外科等の医師を増員されたのですね。
遠藤 医師だけでなく、チーム医療の実戦部隊が必要です。たとえば脳の動脈に血栓が詰まる「脳梗塞」の疑いのある患者さまが搬送されたとしましょうか。すぐにCTやMRIなど画像検査を行い、診断確定後、「機械的血栓回収術」の適応となれば、血管撮影室(アンギオグラフィ室)へ移動します。レントゲン透視下で、脚の付け根の動脈から脳の病変部までカテーテルを挿入し、専用の器具を使って血栓を取り除く治療を実施します。
このとき医師と連携して迅速に働くのは診療放射線技師、手術室看護師、臨床検査技師、薬剤師など多職種のスタッフであり、チームとしてトレーニングが欠かせませんし、夜間・休日にも対応できるようシフトの見直しも大切です。
ー 心筋梗塞にもカテーテル治療が有効と聞きます。
遠藤 心筋梗塞は心臓の筋肉に酸素と栄養を届ける冠動脈が、重度の動脈硬化で狭窄・閉塞する疾患。カテーテルでステント(筒状の金属メッシュ器具)を送り込み、冠動脈を広げる経皮的冠動脈ステント留置術が治療の主流です。
これら高度な医療に備え、MRI、CT、血管撮影装置はハイエンド機種を導入しています。
ー 病院の医療水準を引き上げたということですね。
遠藤 旧病院は大きな団地の中にあり、住民の方には〝総合かかりつけクリニック〞という位置づけだったと思います。もちろん個々の診療科では優れた専門医療を提供しており、人工透析内科、膠原病リウマチ内科、整形外科の脊椎手術や膝・股関節の人工関節置換術、小児科の循環器・内分泌・夜尿症治療、泌尿器科の前立腺肥大やがんの手術、眼科の白内障や網膜手術等には定評がありました。
医師と患者さまの信頼関係は結ばれていましたので、診療科同士、医療スタッフ同士の有機的な連携をこの機会にさらに深めました。今後は病院の規模にふさわしい総合力を打ち出していきます。日本人の三大疾患である脳血管疾患、心臓疾患、がんの診療でも、地域に貢献したいですね。
地域におけるがん治療の担い手をめざす
ナチュラルトーンのインテリアで心安らぐ5床の外来化学療法室。点滴の合間に、看護師や薬剤師と相談ができる
ー 遠藤先生はがん治療のスペシャリスト。日本臨床腫瘍学会認定「がん薬物療法専門医・指導医」です。前任は、同じIMSグループの新松戸中央総合病院の副院長であり、かつ腫瘍外来を率いてこられました。専門の消化器(胃、腸、肝臓、胆道、膵臓)を超えてさまざまな領域のがん治療に携わり、GIST(消化管間質腫瘍)や原発不明がん、軟部骨肉腫など希少がんのご経験も豊富です。
遠藤 がん治療では「手術」「放射線療法」「薬物療法」が三大療法とされます。前二者は腫瘍に直接アプローチする局所療法ですが、薬物療法では投与する薬剤が血液や体液を介して全身に作用します。当然ながら広範な知識と経験が求められ、外科医や放射線腫瘍医と連携するキーパーソンとならなければなりません。
当院では私と、がん薬物療法専門医の資格を持つ血液内科の医師と2名が中心となり、化学療法委員会を立ち上げました。各診療科でがん患者さまを受け入れたときはキャンサーボードを開き、積極的に関わっていきます。
ー 新松戸中央総合病院では、2024年1月に「新松戸高精度放射線治療センター(SMARTセンター)」がオープンします。JR武蔵野線で3駅と近隣ですし、先生の“古巣”でもある。連携予定はあるのでしょうか?
遠藤 現在、連携体制について打ち合わせ中です。MRI画像で腫瘍の位置と動きを追いながら、照射を同期させる「メリディアン」ほか、脳腫瘍等をピンポイント照射する「ZAP–X」など国内トップレベルの放射線治療機器が配備され、心強い味方となるでしょう。
ー がん薬物療法にはいくつかの種類があるとうかがいます。
遠藤 大きく分けて①がんのDNAに働きかけ増殖を抑える「細胞障害性抗がん薬」 ②がんの増殖にホルモンが関わっている場合、ホルモンを抑制する「ホルモン療法」 ③がん細胞に特異的に発現する遺伝子やたんぱく質を狙い撃ちする「分子標的薬」 ④ヒトの免疫機能を活性化する「免疫チェックポイント阻害薬」が挙げられます。
④はメカニズムを解明した京都大学の本庶佑博士が2018年ノーベル医学生理学賞を受賞したことで話題になりました。ヒトの血液・体液には異物を排除するさまざまな免疫細胞が存在し、その中にがん細胞を直接攻撃する「細胞障害性T細胞」があります。ただがん細胞はずる賢く、このT細胞と結びついてブレーキをかけてしまう。簡単にいえば、免疫チェックポイント阻害薬はこのブレーキポイントを外し、T細胞本来の攻撃力を活性化する薬です。
ー 各種薬剤はがんの種類や進行によって使いわけるのですね?
遠藤 がん遺伝子の解明が進み、個別のがんに有効な薬を選択できるようになってきました。たとえば乳がんなら女性ホルモン依存性か、がん細胞表面に成長因子であるHER2タンパクが過剰に存在するかなどで治療薬が異なります。多くのがんで遺伝子検査が標準治療として行われ、保険診療の対象となっています。がんの個別化医療の一つですね。
ー 免疫チェックポイント阻害薬はいかがですか?
遠藤 薬効に関するさまざまなエビデンスが報告され、現在3タイプ6種の薬剤が保険診療で使われています。免疫チェックポイント阻害薬を2種類組み合わせる、細胞障害性抗がん剤や分子標的薬と併用するなど多様です。
免疫細胞を活性化する薬ですから、まだ患者さま本来の免疫力が高い時期=がん診断後の1次治療から導入する方が効果的だとわかり、標準治療になってきました。私個人は、かなり切れ味の良い薬という印象を持っています。
ー 三愛会総合病院には外来化学療法室がありますね。
遠藤 外来で点滴を受けていただくために5床を用意しています。治療が軌道に乗り入院の必要がなくなれば、通院と内服でそれまで通りの日常生活を送ることができ、仕事との両立が可能なケースも少なくありません。
頻回の点滴で腕の静脈に負担がかかる場合は、鎖骨の下など深部にある太い静脈に薬液を入れられるよう、皮膚にカテーテルとポートを埋め込むこともあります。管理方法をマスターすれば、インフューザーポンプで薬液を〝お持ち帰り〞にして、自宅で点滴を継続できます。
ほかには皮下注射や静脈注射、腫瘍に直接注入する腫瘍内投与、腹腔や髄腔、膀胱内に注入するなどの投与法があります。
ー 患者さまにふさわしい方法が選ばれるのですね。
遠藤 可能な限り患者さまの病状とライフスタイルに合わせて選択します。消化管が弱り、経口では十分薬を吸収できない方は点滴や注射が優先となり、また一人暮らしで服薬管理に不安のある方も、入院・通院での投与が向いています。
一方で自己管理ができ、自宅での内服だけでOKという方が、あえて外来化学療法室に通い、看護師や薬剤師の顔をみて安心したいという例もある。患者さまの暮らしと要望に応えることも「個別化医療」でしょう。
ー 闘病を支えることも、がん医療治療の大切な役目。
遠藤 緩和ケアチームの役割もとても重要です。単に痛みや吐き気などの肉体的なケアにとどまらず、がんの告知でショックを受けた瞬間から精神面、生活面の支援に尽力します。長期に渡る闘病ですから、ご本人と家族が納得いく治療を提供しなければなりません。薬物療法で頭髪や睫毛が抜ける、皮膚トラブルがあるなど外見の悩みにも、経験豊富な看護師はいろいろな解決策を知っていますよ。
ー 現在、進行がんの患者さまにはどのような治療を提供されていますか?
遠藤 手術と薬物療法を組み合わせた根治療法の望めない方には、緩和ケアチームを介入させ、症状緩和と延命を目的に薬物療法を提供。ご本人の希望に沿いつつ在宅医療との連携や看取りを進めることになるでしょう。
ー 住み慣れた地域で、満足度の高い治療が受けられますね。
遠藤 それこそが当院の最大の使命です。
ー ありがとうございました。
三愛会総合病院
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埼玉県三郷市彦成2-342
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