ちょっとぶつけたり、転んだはずみに簡単に骨が折れてしまう骨粗鬆症。女性ホルモンの影響で更年期以降の女性は要注意です。早期発見・早期治療・早期リハビリをモットーに、予防と治療に尽力する三愛会総合病院副院長で整形外科診療部長の岡崎洋之医師にお話をうかがいました。
医師紹介
三愛会総合病院
副院長・整形外科診療部長
岡崎 洋之 医師
- 日本整形外科学会 整形外科専門医
- 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
- 難病指定医
- 身体障害者福祉法第15条指定医師
- 小児運動器疾患指導管理医師
「いつのまにか骨折」を招く骨粗鬆症
ー骨粗鬆症の患者数は全国で1590万人※。うち女性は1180万人とほぼ4分の3を占め、70代では3人に1人、80代では2人に1人が罹患しているとの報告があります。三愛会総合病院では、骨粗鬆症の治療に力を入れているとうかがいました。まずどのような病気なのか教えてください。
※「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」2025年より
岡崎 骨がスカスカの軽石のようにもろくなり、簡単に骨折する病気です。「いつのまにか骨折」とも呼ばれますね。骨粗鬆症そのものに自覚症状はなく、まず骨折で来院される方が大半。
つまずいて転んだ時、50代なら手で体をかばい手首を骨折。60代~70代なら受け身の姿勢を取って肩を骨折。その後の検査で、多くの方がその原因は骨粗鬆症と診断されます
ー70代、80代だと、脚の付け根を骨折したという話をよく聞きます。
岡崎 正式には「大腿骨近位部骨折」と呼び、整形外科では緊急手術の対象です。すぐ骨をつなぐ、あるいは大腿骨骨頭を人工骨頭に置き換え、翌日には超早期リハビリを開始。歩行訓練に入ります。高齢者は1週間以上ベッドで安静にしていると筋力が急速に衰え、〝寝たきり〞を誘発しかねません。
70代以上でもう一つ注意したいのは圧迫骨折と呼ばれる「脊椎椎体骨折」です。背骨は頸椎・胸椎・腰椎からできていますが、負荷のかかる胸椎と腰椎の境目の骨が〝いつのまにか〞つぶれてしまう。床の物を取る、イスにトンと座るといった日常動作のはずみで起こるため、痛みも少なく放置しがちです。
ー 治療を怠るとどうなりますか?
岡崎 椎骨はお腹側が頂点の楔型につぶれていき、その負担で上下の椎骨にも骨折が広がりがち。身長が縮み、背中が丸くなって転びやすくなり、次の骨折を招きかねません。
骨粗鬆症が深刻なのは、骨折が日常生活動作を制限し、要介護を招き、健康寿命を大きく損なうことです。本人やご家族、社会にとっても大きな損失。骨粗鬆症治療の一番の目的は、骨の強度を取り戻し、骨折を未然に防ぐことです。
ーなぜ骨粗鬆症が起こるのでしょうか?
岡崎 骨は成長期を終えても新陳代謝を繰り返しています(骨代謝回転)。古い骨を溶かし吸収する「破骨細胞」と、新しい骨の枠組みを作り、カルシウムとリンを定着させる「骨芽 細胞」が協調して働いていますが、さまざまな理由で破骨細胞の骨吸収が優位になると、骨粗鬆症を発症します。 骨の強さを示す指標の一つは「骨密度」。カルシウムが一定の体積にどれだけ含まれるかを示します。もう一つは「骨質」で、主に骨の枠組みを支えるコラーゲンの弾性と質。ともに骨芽細胞の働きにかかっています
ー女性に骨粗鬆症が多いのはなぜですか?
岡崎 生来、骨の太さや強さが男性に劣ることもありますが、もっとも影響するのは女性ホルモンであるエストロゲンの減少。エストロゲンは破骨細胞の働きを抑制し代謝のバランスを取っています。閉経後、分泌量が低下すると骨粗鬆症のリスクが急激に高まるのです。50代以降は、市区町村の健診や近隣のクリニックで、定期的に骨密度を測りましょう。 糖尿病や慢性腎臓病の方、甲状腺や副甲状腺疾患のある方、膠原病 などでステロイドを服薬している方も要注意。主治医との相談が必要です
国際骨粗鬆症財団(IOF)認定賞状

骨粗鬆症治療の専門性の高い病院として認定されています
治療薬は種類が豊富。骨折には低侵襲手術を採用
ー三愛会総合病院ではどのような検査と治療を行うのですか?
岡崎 まず骨密度測定を行います。当院では2種類のX線を活用する一番精度の高いDXA法で腰椎と大腿骨近位部を測定します。健常な若い成人の平均骨密度(YAM)を100とし、自分の骨密度の数値がパーセントで提示され、80%以上が正常。79~71%が骨量減少。70%以下が骨粗鬆症。ただし骨密度が正常でも、手首、肩、大腿骨、脊椎など脆弱骨折があれば骨粗鬆症と診断されます。
ー そのほかには?
岡崎 血液検査でカルシウム濃度と「骨代謝マーカー」を測定。破骨細胞と骨芽細胞それぞれが分泌するさまざまな物質によって病態を知ることができ、薬の選定や効果判定など治療計画に役立てます。
食事や運動など生活習慣も大きく影響しますから、治療と併行して栄養指導や運動療法の指導も実施します。
ーカルシウムをしっかり摂らなければなりませんね。
岡崎 カルシウムは700~800mg/日。乳製品、小魚、大豆製品に多く含まれます。ビタミンDとビタミンKも大切。ビタミンDは食品だけでは足りません。日光を浴びて紫外線が肌に当たると、体内のコレステロールを材料としてビタミンDが生成され、腸管からのカルシウム吸収と、骨代謝時のカルシウム濃度維持などに働きます。
顔のシミが気になる方は、1日15分、手のひらで日光浴を行うとよいでしょう。また、ビタミンKにはカルシウムを骨に定着させる作用があり、バランスのよい食事を心がけましょう。
ー運動も大事なのですね。
岡崎 運動の刺激で微量の電流が骨に伝わると強度を増すという研究があります。ウォーキングやストレッチ体操がおすすめです。運動で筋力やバランス感覚をアップさせれば転倒防止にもなります。
ー治療について教えてください。
多田 基本的に薬の投与で骨密度を上げていきます。薬にはさまざまな種類があり、骨に沈着して骨吸収を抑制するビスホスホネートを筆頭に、骨代謝に関わるホルモンに着目し骨形成を促すタイプ、破骨細胞の形成を抑制するタイプ、女性ホルモンに似た作用を持つタイプなど。飲み薬と注射があり、投与間隔も毎日、週1、月1、半年や1年に1回などと多様です。
症状が重く骨折リスクの高い方には、まず効果の高いホルモン系の注射で骨密度を短期間に上げるケースが多いです。近年、骨粗鬆薬の開発は目覚ましく、テリパラチド、アバロパラチド、ロモソズマブなどは、骨折リスクを50%低減するとの報告があります。その後は個々のライフスタイルや症状に応じて使い分けます。
ーどのぐらいの期間、服薬が必要なのですか?
岡崎 薬をやめるとまた骨密度が低下するので、将来の骨折を防ぐために薬とは一生のお付き合いです。定期的な通院と医療スタッフとのコミュニケーションには、治療のモチベーションと生活習慣改善を維持する効果があります。
ー脊椎椎体骨折は、自然に改善するのでしょうか?
岡崎 初期に診断がついた場合は、コルセットなどの保存治療を行いますが、骨折の痛みが持続する場合、あるいは背骨の変形が進行した場合は、外科的治療が必要です。変形が進行し前かがみの姿勢が酷くなると、活動性が低下するばかりでなく、消化器が圧迫され逆流性食道炎などを起こしたり、肺や心臓に負担をかけたりと合併症を招きかねません。
ーどのような手術ですか?
岡崎 骨折が軽度であれば「経皮的椎体形成術(BKP)」を行うことが多いですね。背中を左右1ヵ所ずつ5㎜ほど切開し、つぶれた椎体に細い管で風船を挿入。膨らませて椎体を再建し、中に医療用セメントを充填します。所要時間は30分ほどです。
ー症状が重い場合は?
岡崎 背骨が安定するよう「椎体固定術」を検討します。まず、顆粒状の人工骨により骨折椎体を再建。ついでその上下の椎体の、左右にスクリュー(ネジ)を計4本差し込み、上下のネジの頭同士にロッドと呼ばれる心棒を渡して留め付けます。弱った椎体を上下の椎体と一体化させ、安定化する治療です。所要時間は1時間ほど。手術翌日からリハビリを開始し、退院後はスムーズに体が動いて、日常生活を楽しめるようになります。
ー大腿骨近位部の骨折も、手術とリハビリで以前と同じ生活が取り戻せるのですね。
岡崎 はい。当院にはリハビリテーション部門もありセラピストも多数在籍し、十分なサポートが可能です。しかし骨折は未然に防ぐに越したことはありません。骨粗鬆症は早期発見・早期治療を心がけることが肝心です。
当院では骨粗鬆症リエゾンサービス(OLS)チームを立ち上げ、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、骨粗鬆症マネージャー、社会福祉士など医療スタッフが参画し、骨折で入院中の患者さまに治療の説明と服薬指導、退院後の生活習慣のアドバイスを実施し、二次性骨折の予防に努めています。
また、骨粗鬆症の市民講座など啓発活動も定期的に開催中。地域の方々の健康寿命を守ることが、私たちの使命と感じています。
ーありがとうございました。
かかと落とし体操
足を肩幅ほどに開いて背筋をのばし、両足の踵を上げ、ストンと落とす。不安定な方は机などにつかまって行ってください。
ダイナミック・フラミンゴ体操
左右の足で片足立ちを1分ずつ行う。不安定な方は机などにつかまって行ってください。
DXA法検査機器
DXA法の骨密度検査機器。2種類のエネルギーの異なるX線を使用。全身を測定できるが、ガイドラインでは腰椎と大腿骨近位部を測定し、数値の低い方を検査数値とする
経皮的椎体形成術(BKP)
背部から撮影
側面から撮影
つぶれた椎体に風船を挿入して膨らませ、椎体を再建。その後、医療用セメントを充填して骨強度を保つ
椎体固定術
脊椎のX線写真。黒く映っている下から5つ目の第1腰椎が骨折部位
つぶれた第1腰椎に顆粒状の人工骨を充填。その上下の椎体をスクリューとロッドで固定し、脊椎を安定させる
三愛会総合病院

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