春日部中央総合病院の眼科では、角膜や水晶体周辺の3D断層撮影が可能な最新鋭の検査機器「前眼部OCT」を導入。緑内障の中でも失明率の高い「原げんぱつ発閉へいそく塞隅ぐうかく角緑りょくないしょう内障」の早期発見をはじめ、幅広い眼疾患の予防と治療に尽力しています。陣頭指揮をとる多田篤史医師に詳細をうかがいました。
医師紹介
春日部中央総合病院
眼科
多田 篤史 医師
- 医学博士
- 日本専門医機構 眼科専門医
地域の方々の「クオリティ オブ ビジョン」を守るために
ー春日部中央総合病院の眼科では、2023年から「前眼部OCT(角膜や虹彩、水晶体などの眼球前方の構造を非接触で3次元画像として撮影する光干渉断層計)」を活用した「眼科ドック」をスタートさせました。毎週月曜午後の予約制で、1500円(税込)とリーズナブル。反響はいかがですか?
多田 受診者は月に15人ほど。口コミで少しずつ増えていますね。ヒトは情報の約8割を視覚から得ています。目に不調が起こると一気に「生活の質:クオリティ オブ ライフ」が低下してしまいます。「見え方の質:クオリティ オブ ビジョン」という言葉もあって、目の健康と、自由で豊かな日常生活は表裏一体です。
自覚症状の乏しいまま進行する眼疾患を早期発見し、治療につなげることは、地域医療の担い手としての役目だと思っています。
ー一般の健康診断に含まれる眼科健診とは、どのように違うのでしょうか?
多田 眼科健診は一般的に視力・眼圧・眼底カメラがスタンダード。一方、当院の最新検査機器「前眼部OCT」は、眼の前側=角膜と水晶体及び隅ぐうかく角(角膜と虹彩の間の房水の排出口)の詳細な構造を得ることができる検査です。近赤外光を活用し、1回の検査時間わずか5分間で詳細な3D断層像を描出することができます。
受診者さまの眼に直接触れないのも利点ですね。「OCT」を導入している医療機関は多いのですが、前眼部に特化したOCTは現代の緑内障、白内障、角膜疾患において、なくてはならない設備だと考えています。特に、この機械がなければ、現代の緑内障診療は成り立たないと思っています。
ー 「緑内障」は日本人の失明原因1位ですね。まずどんな病気なのか基礎から教えてください。
多田 緑内障は「眼圧」の上昇などによって視神経が障害され、視野が欠けていく病気です。
ボールが空気圧で球体を保っているように、眼は内側から外側へ適度な眼圧がかかっています。正常であれば10~20mmHg。
一方、視神経は光をキャッチする網膜の神経線維が集まった束で、視覚情報を電気信号として脳に伝えます。眼底で視神経の起点となる「視神経乳頭」は特に繊細で、眼内圧力などの刺激で一部が傷つき、壊死してしまうことがあります。死んだ神経細胞は再生できないので、一度欠けた視野は元には戻りません。
ーどうして眼圧が上がってしまうのでしょうか?
多田 鍵を握るのは、水晶体と角膜の間の空間を循環する「房ぼうすい水循環」です。房水は毛もうようたい様体で作られ、栄養を運び、老廃物を除去する機能があります。前眼房を巡った房水は、角膜と虹彩が接する「隅ぐうかく角」にあるシュレム管から排出されるのですが、この排出が滞ると房水が過剰になり、眼圧が上昇します
ー房水の排出は、隅角の形と密接な関係があるのですね?
多田 はい。緑内障は大きく①原発開放隅角緑内障と ②原発閉塞隅角緑内障にわけられます。①は、隅角は開いているけれど、シュレム管のフィルターである「線維柱帯」が目詰まりして発症するもの。②は隅角そのものが狭いか、閉じていて房水が流れず発症するもの。
前眼部OCTはこの隅角をしっかり観察でき、原発閉塞隅角緑内障と、その予備群をスクリーニングできます。
ー他の検査では、隅角のチェックはできないのでしょうか?
多田 できますよ。一般には角膜上に隅角鏡という特殊レンズを入れ、細隙灯顕微鏡で観察します。ただ時間がかかる上、点眼麻酔をしても痛みを訴える方は多いです。また、医師の眼による評価となり、定量的に隅角を評価することは難しいです。当院の眼科ドックなら手軽に受けていただき、痛みなどなく正確な診断と早期治療につなげることができます。
特に隅角の狭い方は、やや長時間下向きになっていた時、また眼科を受診時に散瞳薬を使用し、瞳孔が開いた状態(散瞳)になった時などに、隅角が完全に閉じて眼圧が急上昇する「急性閉塞隅角緑内障」の発作を起こすリスクがあります。眼の激痛、視力低下、視野に靄や虹がかかるなどのほか、頭痛や吐き気を伴います。至急眼科医のもとで適切な治療を受けてください。
ただ、すべての人が、眼圧が上昇して、症状が出る訳ではありません。3割ほどの人は無症状となります。しかし、眼圧が高いため、視神経の障害は進行していきます。この状態を「慢性閉塞隅角緑内障」といいます。閉塞隅角で恐ろしいのは、こちらになります。急性閉塞隅角緑内障は、わかりやすくいえば、治療時期を教えてくれる状態であり、その時に治療すれば、視機能を維持できる可能性が高いですが、慢性閉塞隅角緑内障は、いつの間にか視機能を失うわけですからね。
ー眼科ドックにより、自分が閉塞隅角だと知ることは、治療のタイミングを知ることなのですね
多田 緑内障は基本的に進行が遅く、視野が一部欠けても片方の眼で補うため、なかなか気がつきません。40代以上で特に親族に緑内障既往者のいる方は、眼科健診に加え、視野検査や視神経に関わる詳しい検査を定期的に受けましょう。 「正常眼圧緑内障」といって、①には眼圧が正常値でも発症するタイプがあり、日本人に目立ちます。現在、こちらの型の緑内障のはっきりとした原因はわかっていません。低血圧による眼環流圧の低下、近視、睡眠時の眼圧上昇などさまざまな理由が考えられます。
薬物療法と外科的治療を患者さまに合わせて選択
ーでは緑内障の治療について教えてください。
多田 眼圧を下げる点眼薬と、房水の排出路を確保するレーザー治療や手術を、病態や患者さまの希望、年齢、生活背景などに配慮しながら選択・組み合わせます。
点眼薬は房水の排出を促進するプロスタグランジン系の薬と、自律神経に働いて房水の産生を抑えるβ遮断薬系、α1やα2遮断薬系などさまざまです。
ー 急性発作リスクのある原発閉塞隅角緑内障の方には、どのような外科的治療がありますか?
多田 診断の結果、白内障を併発している方には、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズにいれかえる白内障の手術を検討します。
白内障では水晶体が濁ると共に、厚く硬くなるケースが大半です。スリムな眼内レンズを入れることで、隅角周辺の空間に十分なゆとりを確保できます。
ーレーザー治療や手術はいかがですか?
上野 「レーザー周辺隅角形成術(LPI)」を選択するケースが多いです。虹彩の円に沿って複数個所にレーザーを照射し、虹彩を少し収縮させて隅角を広げます。急性発作時にも有効。負担の少ない治療で、将来白内障手術をする場合もスムーズです。 類似の治療に「レーザー虹彩切開術(LI)」があり、こちらは虹彩にやや大きめの孔を貫通させ、排出路を作るもの。水晶体を支える毛様小帯に負担がかかるので、後日白内障手術を行う場合は、難易度が上がります。 線維柱帯と虹彩が癒着している場合は、癒着部分をはがす「隅角癒着解離術」を行います。
ー①の原発開放隅角緑内障についても教えてください。
多田 まずは薬物療法をスタート。正常圧緑内障も眼圧のコントロールは有効です。十分に下がらない場合は外科的治療を検討します。レーザーでは、線維柱帯の目詰まりを解消する「線維柱帯形成術」。手術は「線維柱帯切開術(トラベクロトミー)」で、目詰まりしている線維柱帯を切り開き、排出路のシュレム管に房水を流します。「線維柱帯切除術(トラべクレクトミー)」は線維柱帯の一部分切除し、房水の出口を別に作る手術です。
トラベクレクトミーは閉塞隅角緑内障でも適応となる症例があります。
ー外科的治療が上手くいけば、完治するのですか?
多田 前述のとおり欠けた視野は戻りません。治療の目標は〝悪化させない〞。レーザーや手術も万能ではなく、経過観察をしながら薬物療法を併用する患者さまもいらっしゃいます。一生上手につきあっていく疾患と思ってください。
ー主治医の先生との信頼関係が大事ですね。
多田 緑内障は貧血、高血圧、低血圧、睡眠中に酸欠状態になる睡眠時無呼吸症候群、血管にダメージが及ぶ糖尿病、動脈硬化を背景とした心疾患などと密接な関係が指摘されています。当院は内科、循環器科、糖尿病・代謝内科と連携した全身管理が可能です。
緑内障に限らず、手術は治療のほんの一部。外来で日々患者さまと向き合い、できるだけ長く〝よく見える眼〞を一緒に守ることが、我々眼科医の役割だと思っています。
ー最後に患者さまへのアドバイスをお願いします。
多田 きちんと食事をして、運動をして、睡眠をとって、規則正しい生活をしてください。
ーありがとうございました。

前眼部OCT 光干渉断層撮影装置

角膜や水晶体を中心に、立体的な断層映像を描出。
さまざまなアプリケーションが装備され、計測データも同時出力する
開放隅角と閉塞隅角

隅角周辺組織の詳細を立体的に把握することで、治療方針を立てる
白内障の症例
水晶体が濁り、厚みのあることがわかる
トータル解析
最新のOCTを用いて、角膜・前房・水晶体・網膜など各部位の状態を3次元的に計測・分析する
春日部中央総合病院

◎記事内容に関するお問合せ: TEL. 048-736-1221