メディカル・ズームイン

低侵襲、形・機能の温存にメリット
最新のがん放射線治療

新松戸中央総合病院では、2024年1月から新松戸高精度放射線治療センター(通称SMARTセンター)を本格働させました。
IMRTなどの外部照射から、内部照射、ラジオアイソトープ(放射性同位元素)を活用した核医学治療まで、トップクラスのがん放射線治療を網羅的に提供します。地域の皆さまの期待にセンター長の伊丹純医師が応えます。

新松戸高精度放射線治療センター センター長 伊丹 純 医師

  • 日本放射線腫瘍学会/日本医学放射線学会放射線治療専門医
  • 日本医学放射線学会指導医放射線科指導医
  • 日本中性子捕捉療法学会認定医、緩和ケア研修修了
  • 前日本放射線腫瘍学会小線源部会会長
  • Japanese Journal of Clinical Oncology編集委員
  • Brachytherapy編集委員、Radiation Oncology編集委員

低侵襲な放射線治療 高齢者も安心

前立腺と直腸の間に注入されたゲル状のスペーサー。放射線に敏感な直腸を守る働きがあり、半年ほどで自然と体内に吸収される


TrueBeam
リニアックを搭載した放射線治療システムTrueBeam。3次元原体照射に加え、強度変調放射線治療や定位放射線治療が可能
前立腺に金マーカーを挿入。TrueBeamはこれを目印に腫瘍を追尾してIMRTまたはSRTを行う

ー 新松戸中央総合病院では、新松戸高精度放射線治療センターが本格稼働しましたね。がんの3大療法「手術療法」「薬物療法」「放射線療法」が揃ったことにより、患者さま一人ひとりの病態に応じて3分野が連携。最適解を導く「がんの個別化医療」が院内でスピーディに実現すると思います。
まず放射線治療の利点から教えてください。

伊丹  放射線治療では、放射線の電離作用※でがん細胞の遺伝子を傷害し、増殖を抑え死滅させます。正常細胞と比べ、がん細胞は分裂・増殖が速いため放射線によるダメージが大きく、回復も遅い。その特性ゆえに成立する治療です。
もし、がん細胞だけを放射線で狙い撃つことができれば、理論的にはすべてのがんを根治できることになります。近年の放射線治療は、腫瘍周辺の正常細胞への照射を極力抑えるテクノロジーを劇的に進化させました。全身麻酔下で体を切り開く外科手術と比べれば、明らかに低侵襲。高齢者や持病のある方にとって、リスクの小さい選択肢となります。

ー 副作用の心配も、どんどん減っているのですね?

伊丹 まだゼロには至りません。施術後10日から2週間程度、倦怠感や食欲不振、皮膚の炎症や口内炎、食道炎、腸炎などを訴える方は一定程度いらっしゃいます(急性期障害)。患者さまが小児であれば、数十年後に患部から二次がんを発症する可能性は否定できませんし、ごく稀に長期の血行障害や出血、細胞間組織の線維化を起こす症例もあります(晩期障害)。
ただ放射線は当てた部位にしか効きませんし、副作用も起こりません。線量の体への影響は、原子物理学でほぼ正確に予測できますから、経験豊富な医師であれば対策も十分に立てられます。

ー 体の機能も温存しやすいと聞きました。

伊丹 臓器や組織を切除しませんので、腫瘍周辺の神経や筋肉への影響も限定的です。呼吸機能、排尿・排便機能、性機能等の障害が少ない、リンパ浮腫が起こらない、頭頸部のがんであれば声や嚥下機能を守れるといった事例はしばしば経験します。顔貌を損なわずに済む点も大きいですね。

ー 放射線治療は、手術や薬物療法と組み合わせる例も多いとか。

伊丹 一般的にステージⅠ期とⅡ期の一部なら、多くのがんで手術単独または放射線単独が標準治療となります。どちらを選んでも5年生存率に差異はありません。
手術との組み合わせでは、①事前に照射して腫瘍を小さくする「術前照射」 ②術後、目に見えず取り残したがん細胞を叩き再発率を下げる「術後照射」 ③手術中に目視下で行う確実な「術中照射」があります。
手術が難しい進行がんでは、薬物療法と組み合わせる「化学放射線療法」が有効。免疫チェックポイント阻害薬との併用も薬効を増幅させるとされ、注目の的です。

ー 放射線治療は常に根治をめざすがん医療の砦なのですね。

伊丹 その通りです。加えて腫瘍による痛み、出血、呼吸困難、消化管の通過障害、脳腫瘍による麻痺症状などを軽減する「緩和ケア」でも活躍。治療と向き合う患者さまの生活の質を守ります。

がんだけを狙い撃つ多彩な技術革新

子宮頸がんの放射線治療
腔内照射で使われるアプリケータ

子宮頸がん治療のため子宮腔内に挿入されているアプリケータ

大きな子宮頸がんでは、腫瘍そのものにもアプリケータを刺入し、組織内照射を行う

進行した子宮頸がんに、化学療法、外部照射(IMRT)、腔内照射、組織内照射とハイブリッド治療を実施。大きかった腫瘍が見事に消えている

YouTube 『ドクター伊丹
放射線治療医のがん情報チャンネル』

放射線治療は危険? 
副作用や治療法について伊丹医師が解説します

ゾーフィゴ®の模式図
去勢抵抗性前立腺がんの骨転移治療に使われるゾーフィゴ®の模式図。静脈注射で投与した放射性医薬品が骨の腫瘍に放射線を照射
《出典:バイエル薬品株式会社「知っておきたい治療のお話と治療中の注意点」》

放射性物質のラジウム223が、代謝が活発になっている骨の転移巣に集まります。

ラジウム223から放出されるα(アルファ)線の力によって、骨に転移したがん細胞を直接攻撃します。

ー 放射線治療には、大きく分けて「外部照射」と「内部照射」の2つがあると聞きます。

伊丹 外部照射は体の外から放射線(主にX線)を当てる一般的な治療。当院ではTrueBeam(トゥルービーム)という機器を用います。
がん細胞を狙う手法の代表が「強度変調放射線治療(IMRT)」。照射口のマルチリーフコリメータでX線の照射範囲・角度・強弱を刻々と調整し、かつ照射口そのものも移動させながら、腫瘍を立体トレースして照射するものです。
前立腺がんを例とするなら、画像上の目印になる金マーカーを前立腺に挿入。治療直前にCT撮影を行い、腫瘍の位置・形状と、呼吸に伴う4次元の動きを把握。すべてを治療計画に織り込み、コンピュータ制御で腫瘍を徹底追尾し、正確な照射を実現します。
当センターでは放射線の影響を受けやすい直腸と前立腺の間にゲル状のスペーサーを局所麻酔下で注入。周辺組織の被曝を最小限にできますから、1回の治療で高線量の照射が可能になりました。以前は週5日×7週=35回の通院が必要でしたが、8〜10回で治療を完結でき、仕事や育児などとの両立もより容易くしています。
また再発リスクの高いがんでは、後述する組織内照射を組み合わせ、根治を図ります。

ー 外部照射には定位放射線治療(SRT)もありますね。

伊丹 腫瘍に向かって、多方向から放射線を集中させる手法です。比較的小さい腫瘍が適応で、特に高線量をピンポイントで当て、1〜2回で治療を完了する技術を定位放射線手術(SRS)と呼びます。
当センターでは、体幹部のがんならTrueBeam。脳腫瘍や頭頸部がんはZAP‐X®というハイエンド機種の活用を予定しています。メスの届かない脳深部の腫瘍には福音となるでしょう。

ー 伊丹先生は日本における内部照射の第一人者とうかがいます。
どのような治療なのですか?

伊丹 線源となる放射性同位元素を腫瘍付近、または腫瘍に直接挿入し、体の内部から放射線を照射する手法です。放射性同位元素からは、元素の種類によってα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線が放出されますが、X線と比べると透過力が弱く、体内ではミリ単位・ミクロン単位しか飛びません。周辺の正常細胞への影響は極少に、がん細胞をダイレクトに攻撃する究極の高精度放射線治療といって良いでしょう。

ー どのような機器をつかうのですか?

伊丹 カプセルに密封した線源を搭載したRALS(遠隔操作密封小線源治療機)とCTを組み合わせ、画像誘導小線源治療を行います。線源はγ線を出すイリジウム192。 
たとえば進行し大きく浸潤した子宮頸がんであれば、化学療法と外部照射に加え、内部照射(腔内照射と組織内照射)が追加されます。治療直前にCT撮影下で子宮腔内と腟腔内、さらに病巣にもアプリケータを計4〜5本挿入。
その1本1本を細いチューブでRALSとつなぎ、治療計画に従って、線源カプセルがアプリケータ内を移動・照射します。
アプリケータの挿入で体に負担がかかりますので、外来で可能な場合もありますが、2日ほどの入院が必要な場合もあります。

ー どんながんにも内部照射は可能なのですか?

伊丹 理論的には可能です。一般的には舌がん、口腔がん、肺がん、食道がん、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がんが多いですね。
乳がんの部分切除後は、再発予防のため乳房全体とリンパ節に外部照射を行うのが普通ですが、当センターでは「加速乳房部分照射」が可能。切除後の乳房に限局してアプリケータを刺入し、組織内照射を行うもので、5日間で終了します。乳がんのサブタイプやリンパ節転移の有無など若干の制約がありますので、ご相談ください。

ー 最後に「核医学治療」について教えてください。

伊丹 放射性同位元素を含む放射性医薬品を、経口や静脈注射で投与し、原子が放出するα線やβ線でがん細胞を傷害する治療です。
当センターで行っているのは、①骨転移した去勢抵抗性前立腺がんを対象とする「ゾーフィゴ®」と、②神経内分泌腫瘍(NEN)の治療薬「ルタテラ®」。ゾーフィゴ®の主成分ラジウム223はカルシウムのように骨に取り込まれる性質があり、がん転移のため代謝異常を起こした骨の病巣に結合。α線の力でがん細胞の増殖を抑えます。
ルタテラ®は、神経内分泌腫瘍に特異的に発現するタンパク質に反応する物質と、β線を出すルテチウム177が結合した放射性医薬品。タンパク質を目印にがん細胞にくっつき効果を発揮します。
実は悪性度の高い前立腺がんに表れるタンパク質PSMAに反応する物質と、ルテチウム177を結合した放射性医薬品が、近い将来日本で認可される予定です。間違いなく前立腺がん治療のパラダイムシフトとなるでしょう。ルタテラ®はその前哨戦です。

ー がん克服の未来が見えてきますね。ありがとうございました。

新松戸中央総合病院