急性期総合病院院長 座談会

高齢化が進む社会において、医療・介護はどのようにあるべきか? AI、ロボット、ゲノム、カテーテル治療......。急速にすすむ医療の進化を、どのように患者さまの役に立てるか?IMSグループの最重要課題です。渋谷正直副理事長を座長に、急性期総合病院の院長4名が登場。それぞれの専門分野を踏まえながら、明日の医療を語ります。

高度な医療を提供する急性期病院

渋谷
病院内フリーペーパー『マイ・ホスピタル』の役目は、医療・介護サービスをわかりやすく案内することです。100号記念ということで、本日は「明日の医療」と題して、医療現場でご活躍の先生方と座談会を組みました。 まずは各施設の特徴とビジョンをお話ください。
加藤
板橋中央総合病院は、先代会長・中村哲夫が1956年に設立した5床の診療所から始まりました。グループの基幹病院に位置付けられています。569床を有し、地域住民のどんなニーズにも応えられるよう幅広い診療科を網羅。手術支援ロボットなど先端医療機器を積極導入する一方、在宅医療との連携にも尽力しています。  近年産婦人科医療の疲弊が社会問題化していますが、当院の分娩出産数は板橋区トップ。小児科の救急外来も時間365日受け入れており、それも信頼いただいている特徴だと思います。
渋谷
加藤院長はホスピタリスト(総合診療医)の第一人者でもいらっしゃる。
加藤
患者さまの訴える症状には、さまざまな原因疾患が考えられます。特に高齢者の多くは複数の疾患を抱えているため、初診は臓器横断的に診断できる総合診療内科が窓口になります。医療効率が上がり、患者さまも迷いません。 転倒・骨折等で搬送された方も、まずホスピタリストが診る。骨折そのものは整形外科医が手術をすれば治りますが、転倒やふらつきの陰に心臓病による不整脈など内科疾患が隠れているかもしれません。術後も肺炎など合併症を起こしやすいため、全身管理も中心となって行う。その分、整形外科医はたくさんの手術に集中できます。
森本
横浜新都市脳神経外科病院はその名前通り、脳神経外科をコアにした病院です。特に脳疾患の7〜8割を占める脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)においては、開頭手術、低侵襲な血管内治療(カテーテル治療)ともに最先端の医療を提供。横浜市では8件しかない一次脳卒中センターコア施設に認定されており、昨年救急車で受け入れた「脳卒中疑い」は1249件。患者数、治療実績とも関東圏トップで、国公立病院や大学病院を凌駕しています。 超急性期脳卒中の集中治療を担うSCUは24床。回復期リハビリテーション病棟は60床あり、総合的な専門医療を実現させました。 脳疾患に関連の深い脊椎外科、循環器内科、認知症診断センター、救急医療に求められる整形外科等がそろっています。
渋谷
今は開頭を必要としないカテーテル治療が主流ですか?
森本
個々の症例によりますが、デバイスの進化もあり、7割を超えるでしょう。脳梗塞には脳動脈を塞ぐ血栓を取り除く血栓回収療法、くも膜下出血には、破れた脳動脈瘤を塞ぐコイル塞栓術。未破裂脳動脈瘤の予防的治療には、フローダイバータ―ステントが登場しました。瘤のある正常血管に目の細かい特殊ステントを留置し、瘤への血液流入を抑制。瘤の8割は半年ほどで縮小し、周辺組織に同化します。繊細な瘤に直接触れる必要のない、極めて安全な治療法です。
松尾
新松戸中央総合病院は地域ニーズに応え、ほぼすべての領域を診療できる333床の急性期総合病院です。 とくにがん治療に力を入れており、先端のロボット支援下手術を含む手術療法、化学療法、免疫療法、加えて来年1月に新松戸高精度放射線治療センター(SMARTセンター)がスタートし、がんの4大治療を網羅的に提供できます。 放射線療法は、高エネルギーの放射線を照射し、がん細胞を死滅させるもの。腫瘍を狙い撃ちし、周辺の正常細胞への影響を最小限に抑えることが肝心です。 国内4台目の導入となる「メリディアン」はMRI画像で腫瘍の位置と動きを追いながら、照射を同期させるハイエンド機器。他に脳腫瘍などをピンポイント照射するZAP-X®、汎用性の高いTrueBeam®、体内の腫瘍に近接して放射線源を一時的に留置する小線源治療機がそろい、体制は万全。PET-CTで、検査精度も格段に上がります。
渋谷
がんゲノム医療にも積極的に取り組んでいますね。
松尾
採取した組織から、がんに関わる遺伝子を網羅的に調べる「がん遺伝子パネル検査」によって、個々の患者さまのがんの特性を掴むことができます。血液中に流出したがん遺伝子(ctDNA)の高精度な解析も実施。治療効果の判定、再発の可能性、適した化学療法の選択など、がんの個別化医療が飛躍的に進歩するでしょう。
渋谷
明樂院長は日本医科大学産婦人科教授を退任後、昨春明理会東京大和病院の院長に着任しました。病院の方針など変わりましたか?
明樂
当院は旧名を東京腎泌尿器センター大和病院といい、泌尿器疾患と透析療法に高い評価を得てきました。そこでその分野はそのままに、私の専門領域である女性医療を2本柱と位置付けました。 当院の特徴は高度な専門性ときめ細かな診療体制でしょう。血液浄化センターでは腎臓内科に関係の深い糖尿病内科と連携。適時に透析療法を導入します。泌尿器科は腎泌尿器センターとして、尿路結石の破砕や摘除、前立腺肥大のレーザー治療、泌尿器がんのロボット支援下手術、さらに男性更年期外来までとオールマイティ。 婦人科は、女性医療センターとして乳腺科や泌尿器科、消化器外科などとの連携の下、卵巣や子宮の良性疾患、骨盤底のトラブルである尿失禁や骨盤臓器脱などに対応。女性ヘルスケア部門では思春期から更年期、老齢期の疾患など、女性のライフスタイル全般に目配りした診療を実施します。当科は元々女性医師が多く信頼も厚かったおかげで患者さまの数も増えてきています。
渋谷
泌尿器・婦人科とも、体の負担が少ない内視鏡や腹腔鏡手術にも尽力されている。
明樂
泌尿器科はこの地域で最も早くからロボットを導入し、数多くの実績があります。また、婦人科内視鏡手術は都内4位の実績です。例えば子宮内膜症の手術などは骨盤の深い部分に病巣があり、開腹より細密な腹腔鏡手術を適応。一方、骨盤臓器脱には操作性に優れたロボット支援下手術が優れています。また、子宮摘出術には腟からスコープや鉗子を入れ、お腹に傷が残らない腹腔鏡手術を導入しました。このように、当院では常に最先端技術を取り入れ、技量に優れた外科医のさらなる育成と、招聘を心掛けています。

急性期病院の未来像は?

	
渋谷
現在の病院をさらに発展させるための将来像はいかがですか?
加藤
予防医学や在宅医療の技術がどんどん進んで、今後は自宅でできることが増えていきます。その分急性期病院は重症患者に特化していく。病床には症状に応じて、ICU機能を付加できるよう設計する必要があるでしょう。そうすれば複数の疾患を抱える患者さまは病棟を移らず、医師のほうが移動して治療を継続できます。
渋谷
IMSグループ全職員が待ちわびる、板橋中央総合病院の新築移転構想があるそうですが、どういう病院になりますか?
加藤
患者さまを中心として全身管理をさせていただく病院になりたいと考えています。そして急性期医療を核に、地域医療の拠点を目指すつもりです。地元クリニックや在宅医療の医療スタッフ、患者さま、介護者の必要に応じて情報を共有し、医療連携・福祉連携を推進する。さらに周辺には当グループに限らず、優れた医療施設がありますから、当院が窓口となり、専門医療の紹介事業も手掛けたい。 理想は病院に図書館やカフェ等を併設し、地域と一体になった、地域のランドマークとなることです。
渋谷
新病院完成後、志村坂上を中心に学園都市ではないですが、街の活性化に寄与できたらいいですね。
森本
超高齢社会では、若い世代の負担を減らすため、認知症と要介護者を極力減らさなければなりません。これらの一番の原因は脳卒中。当院はその超急性期医療のトップランナーであり続けたい。 現在脳卒中を受け入れている病院は、実力に応じ、手術等を担当する急性期病院と、予後のケアと生活支援を担う慢性期病院に二極分化していくでしょう。 脳血管疾患は日本人の死因の3位ですが、手術件数となると消化器や整形外科には遠くおよびません。優秀な医師や医療施設に、手術やカテーテル治療など超急性期症例を集め、経験を積ませ、さらなるレベルアップを図るべき。それが後遺症である麻痺や高次脳機能障害の減少につながります。
松尾
私も医療の質をさらに高めるため、教育に力を入れています。消化器外科専門医も、内視鏡外科学会技術認定医も、外から招聘するのではなく、自前で育ててきました。手術支援ロボットなど先端デバイスも積極導入し、新しいフィールドで活躍できる環境も整えています。上昇志向の強い若手医師が集まり、熱気があります。
渋谷
育てた医師が、さらに次世代に技術を継承してくれると、嬉しいものです。
松尾
その分現場は厳しいですよ。以前、航空自衛隊の戦闘機訓練の動画を見たことがありますが、教育の現場は大変厳しいものでした。わずかなミスが事故につながりますからね。医師だって患者さまの命を預かっている。過酷な訓練に耐えてこそ、素晴らしい医師に育っていくのです。
明樂
超高齢社会における急性期医療の役割ですが、当院は社会の支え手である〝働き盛り〞の患者さまがたくさん来院しています。地下鉄板橋本町駅出口に直結し、都心のオフィスまで20分と地の利は抜群。仕事との両立を考慮したオーバーナイト透析も実施してきました。 注力している内視鏡・腹腔鏡手術には、低侵襲でスムーズな職場復帰を実現する利点がある。一方、子宮内膜症や月経困難症、更年期障害、尿失禁など女性ならではの疾患は、生命に関わることはありませんが、著しく生活の質を損ないます。職場で、出産、育児、介護で大きな役目を果たす女性が元気で暮らせるよう、しっかり支援していかなければなりません。

住み慣れた地域で暮らし続けていただくために

渋谷
なるほど、現役世代が健康であってこそ、社会は成り立つ。それぞれの病院の機能と役割について、大変興味深くうかがいました。IMSグループには、回復期・慢性期医療から在宅医療・介護まで、地域医療を支える多くの施設があります。私は回復期リハビリテーション病院の院長ですが、急性期医療を終え、初めて患者さまご自身が病気を真の意味で受容するという、つらい時期を担当しています。リハビリしても元通りにはならず、医療の限界と不確実を痛感することもあります。こうした中で退院後、どの道の選択が適切か労します。慢性期病院についてご意見があればお聞かせください。加藤院長いかがですか?
加藤
病院から地域社会へ帰すことが、医療費の面からも行政の方針。しかし実際は緩和ケアや看取りに重点を置く医師が多く、日常生活の支援という視点は不十分かもしれません。
松尾
当院はがんの終末期医療で連携するケースが多いですが、在宅で慢性期医療を提供するのは難しそうですね。
森本
慢性期と急性期の中間というのでしょうか。肺炎や尿路感染症など、在宅では対応が難しい病気を発症したとき、一時的に入院できる医療機関があると、地域の診療所は助かりますね。
渋谷
〝慢性期病院の多機能化〞ということですね。誤嚥性肺炎や脱水、尿路感染などの救急の場合はすべて慢性期病院で診るという慢性期救急の方向ができると、地域の皆さまの安心を得られると思うのです。
明樂
多機能型慢性期病院はいいアイデアですね。レスパイト入院(在宅介護が困難になった場合に一時的に医療機関に入院すること)にも適宜応じてもらえれば、現役世代も大いに助かります。
加藤
当グループではありませんが、「おうちへかえろう。病院」という医療施設があります。退院後、患者さまが自宅で前向きに暮らせることを目標に、回復期の治療とリハビリを提供する。訪問診療を担当する関連クリニック、介護プランを立てるケアマネジャー等と情報共有をする。症状が悪化し、入院が必要なら引き受け、また自宅へ戻れるよう支援する。地域医療と福祉を巻き込んだ好循環は、なかなか参考になりますよ。当院もITを活用して在宅支援につなげたいと考えています。

AIで病院が変わる?

渋谷
さて、医療の未来を語るとなるとAIは避けて通れません。生成型AIのチャットGPTの出現で、今後さらに進歩していくと、カルテの記載、診断、治療など、ロボットの方が活躍していったら医者はどうなっていくのでしょう!
森本
医療の根幹はフェイス・トゥ・フェイス。医療従事者と患者さまのコミュニケーションが一番大切な世界であることを忘れてはいけない。ただ、その一方で、事務処理、画像診断、論文翻訳など有用性が明らかになった領域に限っては実用化を進めていくべきです。
松尾
がんのゲノム医療も、高性能な手術支援ロボットも、コンピュータサイエンスの進化があってこそ。いつの間にか共生し、恩恵を受けているわけです。さて、将来はロボット支援下手術のビッグデータが集約・解析され、ロボットが自動で手術をする時代が来るのでしょうか?
加藤
AI技術の導入が、患者さまの利益になるかどうか、きちんと判断するのは医師の役目。医師の哲学、人間教育がより厳しく問われると考えます。
森本
医療現場において信頼関係の構築は何よりも大切です。その根幹がぶれないように、AIは医師によるきちんとした監視下のもと、活用していく必要があります。何でもAIに頼ったり、病気を治すだけでなく、人として信頼される医師になるという自覚をもって行動できる医師こそ、AIを有効的に活用できると思います。
渋谷
サービス分野はどうですか? 診察室や検査室への案内をロボットが行う、という話題を耳にする機会もでてきました。
明樂
当院は質の高い医療の実現のみならず、ホスピタリティ向上に努めている真っ最中です。設備機器のグレードアップで、信頼を得る、内装を改修し心地よい空間とする、待ち時間を減らす、スポーツ整形の入院患者さまには、アスリート向けの特別食を用意する。いわばスモール・ラグジュアリー・ホスピタル。要は森本院長の言うフェイス・トゥ・フェイスですね。AIは医療スタッフの負担軽減に役立つなら、大いに取り入れたいと思います。
渋谷
本日は病院の特徴と、今後の未来像、私どもの基幹病院である板橋中央総合病院の新築移転のニュース、医療業界へのAIの進出に対しての見解などお話しいただきました。夢のような話もありましたが、夢は見るものでなく実現させるものでありたいです。本日は皆さま、本当にありがとうございました。

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