看護/介護スタッフ 座談会

患者さま・利用者さまとご家族を一番近くで支え、関わる時間も長い看護職や介護職。超高齢社会となり、医療の高度化、価値観の多様化などが進む今、何を求められるようになっているのでしょうか。
新型コロナウイルス感染症に翻弄された3年間も振り返りながら、患者さま・利用者さま・ご家族に寄り添い、支え続けるために、看護・介護はどうあればよいか語り合いました。

コロナ禍の中、看護・介護の幅を広げた

長谷部
新型コロナウイルス感染症の対応で、医療・介護の現場は多くの困難を経験しました。
須藤
急性期病院の当院は、新型コロナウイルスの患者さまを1日最大80人受け入れました。重症者も多く、とくにデルタ株に移行した頃は亡くなる方が増え、患者さまやご家族の不安に対するケアの重要性が高まりました。「もしかしたら自分も死ぬかもしれない」という恐怖に苛まれ、面会もできない――そのようなストレスを少しでも軽減しようと、移動が可能な患者さまのためにベランダを解放。また、専用のシャワールームを設置するなど、閉鎖エリア内での治療中でも清潔を保ち快適に過ごせる環境づくりに取り組みました。 一時期医療者に厳しい目が向けられ、スタッフも大きなストレスを感じる中で強く励まされたのが、退院した患者さまやご家族、地域の方々からの感謝や応援の手紙です。
野村
私は回復期病棟勤務ですが、クラスターが発生し、患者さまに接することができるのは医師と看護職だけに限られてしまいました。「リハビリを止めてはいけない」という思いからリハビリスタッフは、患者さま一人ひとりの自己トレーニング用パンフレットを作成。看護職はそれをもとにリハビリをサポートすることでリハビリの継続を実現しました。
阪上
慢性期病院には長期入院の患者さまが多くいます。面会が制限されるとご家族は不安になるので、電話やICT端末を駆使していつも以上に患者さまの様子を詳しく伝えたり、希望を聞くことを心がけました。 手探りの看護、ケアでしたが、「できない」と何もかも制 限するのではなく、「どうしたらできるか」をスタッフ全員で考え、実践することで患者さま・ご家族の思いに寄り添うケアができたと感じています。
葛貫
介護老人保健施設(以下、老健)の介護職がもっとも気をつけたのは、新型コロナウイルスを「外から持ち込まない」「自分たちが感染しない」ということです。入所者さまや通所リハビリの利用者さまへの感染防止はもちろんのこと、人手が減り介護の質が低下するのを避けなければならないからです。具体的には、検温や検査キットによる検査を徹底しました。 一方で、可能な限りいつも通りに近いケアやリハビリを提供し、入所者さま・利用者さまが安心して過ごせるように努めました。また、入所者さまに対しては、運動不足やストレスを解消するためにガラス越しでリハビリを実施。リハビリスタッフがガラスの向こうから声をかけたり手を振ったりして盛り上げ、入所者さまも楽しそうに体を動かす姿が印象に残っています。
長谷部
試行錯誤しながら、工夫を重ねて看護や介護の幅を広げ、信頼関係の構築にもつながったようです。超高齢社会がさらに進む医療・介護において、この経験を生かして相手の立場に立って考えること、各人の専門性をさらに高めることを進めていきたいと思います。

多施設・多職種連携でよりよい療養環境を提供

長谷部
訪問看護では、病院や老健とはまた異なる苦労があったのではないでしょうか?
大田
第5波から緊急訪問依頼が増え、入院できない在宅療養陽性者への在宅酸素療法導入や点滴など初めて対応することにも使命感を持って取り組みました。利用者さまやご家族の不安に対して電話で24時間対応しました。 越谷市が「家で死亡させない」という目標を掲げ、多職種連携強化の機運が高まったことも大きな変化です。当訪問看護ステーションの母体である新越谷病院には感染管理認定看護師が在籍し、その指導を受けた私たちが地域のステーションや、利用者さまをとりまくサービス(ヘルパー・ケアマネジャーなど)に知識や技術を伝達。このような取り組みによって、地域の在宅部門が活気づきました。
長谷部
現在、医療・介護は1つの施設や職種で完結するものではなく、多施設・多職種が協力して患者さま・利用者さまとご家族を支える連携が必須です。
阪上
連携することでよりよい療養環境を提供できます。慢性期病院に転院してくる患者さまは、複数の疾患や治らない障害を抱えていますが、リハビリである程度機能回復が望めることもあります。看護職は、ご家族の意向にも配慮しながら、患者さまがどこで、誰と、何を大切にして生きたいかを自ら選択できるようにサポートし、医師、リハビリスタッフ、介護職等と連携して患者さま中心の療養環境を目指しています。 連携で大切になるのはカンファレンスです。患者さまを中心に据え、ご家族、在宅医療・介護職も交えた多職種カンファレンスの充実は、どこにも負けないと自負しています。
葛貫
利用者さまがどのような生活を望んでいるのかを理解し、一人ひとりに寄り添うことが私たちの使命です。じっくりと話を聞いて本音を引き出し、その人に合ったケアを提供する。この積み重ねが、利用者さまの意向を反映した療養場所選びにつながっていきます。 最後まで安心して望む場所で暮らしていただくためには、病院、老健、在宅医療・介護のスタッフが〝利用者さまが本当に求めていること〞を共有し、連携することが不可欠です。

「その人らしさ」を大切により豊かな人生を支援

長谷部
超高齢社会で、看護や介護には何が求められていると思いますか?
須藤
急性期病院の役割である「救命」「生命維持」「回復支援」を全うするために、看護職も専門性を高めなければなりません。ただし、命が助かればよいという訳ではなく、その人らしい生活を取り戻すためのケアに早期から取り組むことが必要です。患者さまの生き方や価値観を理解することを、急性期看護でも大切にしています。
野村
病気ではなく人を看るのが看護の原点です。急性期病院で治療を終えた方が在宅復帰を目指して転院してくる回復期病院では、機能回復ばかりでなく、患者さまの生活背景や人生をしっかりと見つめた看護が求められます。在宅復帰後、老–老介護※1や認–認介護※2となる場合は手厚い家族支援が必要ですし、独居での在宅療養を希望する場合は多職種連携がとくに重要になります。難しくても、話し合いを続けてベストな着地点を見つけることが大切。また、地域医療を担う病院の看護職として、地域にどう貢献していくのかを考えることも必要だと思います。 ※1:高齢者の介護を高齢者が行うこと ※2:高齢の認知症患者の介護を認知症である高齢の家族が行うこと
阪上
先入観を持つことなく、どのような機能が残され、どのような生活を望んでいるのか、正確に把握することで患者さまの可能性が広がることもあります。大事なのは、患者さまを全人的に看ること。 患者さま・ご家族がどう生きたいかを選択できるようサポートすることが求められていて、そのための専門性を高めていきたい。
葛貫
今までよりもさらに一人ひとりに寄り添った介護が求められると思います。年だから仕方がないと諦めているようでも、本当はしたいことがあるはずです。そこに寄り添うことで、QOLを高める介護ができると思っています。
大田
今まで以上に地域包括ケアシステムの中での多職種協働、意思決定支援、予防看護が必要になると感じています。超高齢社会になり認知症やおひとりさまの利用者さまも増加傾向です。在宅のみでなく多施設・多職種の連携をすることで、「ときどき入院、ほぼ在宅」という在宅療養の望ましい形を実現します。当訪問看護ステーションのように母体病院があると、看–看連携※3を通して急な入院もスムーズです。 療養場所を移るとき、利用者さまとご家族は不安を感じますが、母体病院をはじめグループの病院、介護施設は看護職同士のコミュニケーションが密なので、利用者さまが知りたい情報をすぐに提供でき、それが安心につながっています。どのような状況でも利用者さまとご家族を決して孤独にさせないという強い気持ちで看護に取り組んでいます。 ※3:それぞれの役割の看護職同士が、対象者の生活を支えるために、同じ目標をもって、信頼しあい、対等の立場で協働すること
長谷部
グループの施設・機能のつながりを最大限に活かすとともに、常にそれぞれの対象者を中心にしてしっかりと関わり、頼られる存在になりたいと思います。患者さま・利用者さまとご家族の人生がより豊かなものになるように、しっかりと支援していきましょう。ありがとうございました。

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