慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)の患者数が増えています。腎臓病は自覚症状が現れにくく、一度失われた機能は治療をしても簡単には戻りません。
進行すれば透析療法が必要となり、心筋梗塞や脳卒中を合併するリスクも高まります。早期発見のポイントと治療について、イムス西台透析クリニックの濱野慶朋院長にうかがいました。
治療の鍵は薬物療法と生活習慣の管理
「守り」で慢性腎臓病(CKD)に 立ち向かう!
医師紹介

イムス西台透析クリニック
院長
濱野 慶朋 医師
- 内科認定医
- 総合内科専門医
- 腎臓専門医
- 透析専門医
- 医学博士
働き者の大事な腎臓。健康診断は必ず受けてください
ーイムス西台透析クリニックでは、2026年5月から「慢性腎臓病外来」がスタートしました。
「慢性腎臓病(CKD)」とはどのような病気なのでしょうか?
濱野腎臓の障害や機能低下が慢性的に続く、さまざまな病気の総称です。血液検査や尿検査、画像検査で腎臓の異常が認められ、それが3ヵ月以上続く場合「慢性腎臓病」に該当します。腎機能(eGFR)が健常者の60%未満であることを目安にする場合もあります。診療を要する患者数は、国内に約2000万人(成人の5人に1人)と推定され、まさに国民病です。
腎臓は予備能力が高い臓器で、機能が30%未満になるまでほぼ自覚症状が現れません。気づかずに無治療のまま進行すると、慢性腎不全を経て「腎代替療法(透析、腎移植)」が生涯にわたり必要な末期腎不全に至ります。
ー腎臓はどのような役割を担っているのですか?
濱野腎臓は背中側の腰よりやや高い位置に左右2個あり、握りこぶしほどの大きさです。もっとも大事な役割は①血液を濾過して老廃物を尿として排泄すること。②尿(水分)量をコントロールし、体内の水分量や塩分量を管理すること。③ビタミンDや造血ホルモンをつくることです。
ー働き者ですね。どうやって血液を濾過するのですか?
濱野腎臓には、毛細血管が毛糸玉のようになった「糸球体」があり、フィルターとして働きます。
これで血液を濾過して尿の元をつくります。それに続く「尿細管」が尿の成分を調整し、タンパク質、糖分やアミノ酸など必要なものを吸収して、老廃物のみが含まれる尿ができます。
ー腎臓の健康の鍵を握るのは、糸球体の毛細血管なのですね。
濱野そうです。血管のフィルターが壊れると血球やタンパク質が漏れてしまい、血尿やタンパク尿になります。反対にフィルターが詰まって血流が滞れば、老廃物が濾過されず血中に残ってしまいます。
老廃物には筋肉活動でできる「クレアチニン」、タンパク質の分解でできる「尿素」、プリン体代謝の産物「尿酸」、代謝活動で生じる「乳酸」などの有機酸、さらに余分なナトリウム、カリウムなどの電解質も含まれます。
ー老廃物が多量に体内に溜まると「尿毒症」が起こるのでしょうか?
濱野腎機能がおおむね6〜10%以下になると尿毒症を発症し、循環器、呼吸器、神経系統、内分泌、造血、代謝など全身に重篤な症状が現れます。透析療法か腎移植を行わなければ、生命活動を維持できません。
ーまさに早期発見が肝心ですね。企業や市区町村で行う健康診断で見つかりますか?
濱野見つかります。血液検査ではeGFR、クレアチニン、尿素窒素、尿検査では尿タンパク、尿潜血、尿糖に着目してください。
特にeGFRは糸球体の1分間あたりの濾過能力を示す値で、別表のように慢性腎臓病の重症度分類に用いられます。別表で青色の部分に該当したり、タンパク尿や血尿が指摘されたら、腎臓内科や泌尿器科を標榜する医療機関を受診しましょう。必要に応じて尿沈渣検査や画像検査、腎生検などを行い、診断を確定して治療方針が決まります。
失われた腎機能は治療により回復する可能性があります。今後の機能低下の進行を抑え、生活の質を守り、健やかな人生を送ることは十分可能です。
治療は長期戦。生活習慣の管理も重要
ー慢性腎臓病には、具体的にどのような病気があるのですか?
濱野①糖尿病関連腎臓病(糖尿病性腎症)、②腎硬化症、③糸球体腎炎(IgA腎症など)、④多発性嚢胞腎、⑤二次性腎炎など、さまざまな疾患があり、上記の①②は透析導入の原因として最多です。特に糖尿病は、頻度の高い病気です。「糖」のエネルギー代謝を支えるホルモン「インスリン」の働きが悪くなり、血糖値が上昇します。
この糖は血管を構成するタンパク質と結合(糖化)し血管を劣化させるため、進行すると大血管症として脳卒中や心筋梗塞、細小血管症として腎症、網膜症、神経障害を合併する方が少なくありません。
ー糖尿病関連腎臓病は、糖尿病と一緒に治療しなくてはいけませんね。
濱野 糖尿病の主治医と連携し、治療方針を決めていきます。血圧は血糖値と同等に重要で、糖尿病や慢性腎臓病の患者さまには家庭用血圧計を購入いただき、1日2回の計測と記録をお願いしています。血糖値を下げる薬は多くの種類がありますが、最近は、血糖値を下げる薬の一部(SGLT2阻害薬など)には、腎臓の保護作用を持つ薬があるので、血糖値が高くない患者さまへも投与されるようになりました。
血圧管理は、慢性腎臓病治療のかなめです。血圧が高いと、糸球体を傷つけ、さらに動脈硬化が悪化し、血液が流れなくなって腎機能が低下します。結果として塩分と水分をうまく排出できず、体液量(血液量)が増え、さらに血圧が上昇し、悪循環となって進行します。②の腎硬化症の原因は高血圧と動脈硬化です。
糖尿病関連腎臓病と腎硬化症は、「守りの医療」が特に有効な腎臓病です。
ー症状に応じて、降圧剤が処方されるのですね。
濱野血圧の上(収縮期)120mmHg前後、下(拡張期)75〜80mmHgを最終目標とします。減塩を主体とした食事療法も重要です。
糖尿病関連腎臓病や腎硬化症では脂質異常症を合併しているケースが多いため、中性脂肪や悪玉コレステロールを低減する投薬が必要です。これらを加えないと血管の劣化(動脈硬化)が加速します。
ー生活習慣病対策と共通していますね。
濱野はい、慢性腎臓病診療は、まさに「総合成人病診療」であり、さまざまな因子を同時進行で治療していきます。最近は、腎臓と他の内臓との関わりも重要視されています。「心腎連関」は、その代表です。心臓と腎臓は血液循環・水分・電解質のバランスを共同で調整しているため、どちらかに障害が起きればもう片方の機能も低下し、負のスパイラルになるので、両方を治療していきます。
慢性腎臓病の方は狭心症や心筋梗塞の発症リスクが高いという報告があり、反対に心臓疾患のある方は腎臓疾患に罹りやすいです。
ー③糸球体腎炎(IgA腎症など)、④多発性嚢胞腎、⑤二次性腎炎(ループス腎炎など)についても教えてください。
濱野③は扁桃などの粘膜で細菌と闘う免疫物質IgA抗体が変性し、糸球体のフィルターを目詰まりさせ炎症を起こす病気です。治療法が進歩し、抗補体薬や扁桃摘除とステロイドパルス療法(大量のステロイドを集中的に点滴静注し炎症を抑える療法)で寛解する例が多くなりました。④は腎臓に水の入った袋(嚢胞)ができる遺伝性疾患。早期に見つかれば薬剤で進行を抑えられます。⑤は主に自分の腎臓を障害する抗体ができる自己免疫疾患の一種による腎炎を指します。これらも治療法が著しく進歩しています。
ー専門の医療機関と役割分担しながら診療をされるのですね。
濱野大学病院などで一部疾患(糸球体腎炎など)の炎症を鎮め、火消しをする「攻めの医療」に加え、市中の慢性腎臓病外来で「守りを固める医療」を併用します。
守りを固めるとは、腎機能低下のリスクすべてに対し、同時進行で管理していくことです。なお、疾患の活動性が安定していれば、「攻めの医療」を途中から引き継ぐことも可能です。
既往歴をしっかり把握する。血液検査や尿検査、血圧測定、体重測定から1〜10年単位で情報をとり、診療に役立てます。むくみや疲れやすさ、貧血、皮膚のかゆみ、しびれなどの症状を見逃さない。患者さまの訴えに耳を傾け、一つひとつの項目に達成感があるようにメンタルヘルスにも心を配ります。
全身管理を行いながら、腎機能を守る薬や、各種老廃物の排出を促す薬を適切に処方し、長期戦を一緒に乗り越えます。
ー食事療法も必要ですね。
濱野まずは減塩を徹底し、病態に応じて糖質や脂質の管理を行います。毎日無理なく続けられるよう、管理栄養士のアドバイスやご家族の協力は重要です。末期腎不全に至らなければ、水分やタンパク質、カリウムの厳格な制限は必要ありません。
ー糸球体腎炎には、守りは必要ないのでしょうか。
濱野必要です。腎炎では炎症を改善する「攻め」と、腎臓を保護する「守り」の両方を行ってこそ、治療効果を高めることができます。
腎臓病診療を野球に例えれば、強打者を揃えて大量点を取っても、守りが下手でそれ以上の点を与えてしまっては、試合に負けてしまいます。
実際、IgA腎症の治療では、降圧剤を使って血圧を下げ、尿タンパクを減らすことが推奨されています。
私が尊敬する野球人の故野村克也さんの言葉に「野球の基本は守備である。1点を与えなければ1点を取ったと同じ」「守備にはスランプがない。練習すれば必ず成果が出る」があります。慢性腎臓病の治療も同様です。地道にリスクを改善し、症状や数値を悪化させないよう、しっかり守りを固め、腎機能を失わないようにしていきましょう。当院の慢性腎臓病外来は一人ひとりの患者さまと丁寧に向き合っていますので、お気軽にご相談ください。
ーそうすれば、透析療法を必要としないで済みますね。
濱野合言葉は「守って勝つ! 慢性腎臓病」です。
ーありがとうございました。


イムス西台透析クリニック
