オシゴトいろいろ

認知症の患者さまの安全で正確な検査を支える

医学的根拠に基づく接し方で検査がスムーズに

私が勤務する鶴川サナトリウム病院は、認知症に関する詳しい診断、行動・心理症状(BPSD)や身体合併症への対応、専門医療相談などを行う「認知症疾患医療センター」として、かかりつけ医や介護・福祉施設、地方自治体とも連携し、認知症の方やその家族に適切な専門医療を提供する役割を担っています。
私が行なっている日々の臨床検査業務には、採血や心電図、超音波などさまざまなものがありますが、その一つひとつが検査用のベッドへの移動、採血のために腕を出していただくことなど、患者さまの協力が必要です。しかし、認知症の患者さまの中には指示が通りにくい方や、不安から警戒心が強い方など、日々の対応に苦労していました。検査技師として、患者さまが安全に検査を受けるにはどうすれば良いか、認知症の症状や行動の背景にあるものを知り、医学的根拠に基づいた適切な対応が必要だと考え、臨床衛生検査技師会の認定認知症領域検査技師資格を目指すことにしました。
実は勉強はもともと得意な方ではありません。資格取得のために勉強することは大変でしたが、学んだことを実践して良い結果が得られたときや、患者さまからの「ありがとう」が大きなモチベーションとなって頑張れたと思います。そして、苦労しながらではありましたが、資格を取得することができました。
資格取得後は、患者さまの病態(病気の状態)が把握できるようになり、認知症の種類に応じた対応が可能になったと感じます。特に幻視や幻聴の症状がある患者さまに対して困惑することもあったのですが、現在は自分が落ち着いた対応をすることで、患者さまも比較的スムーズに検査を受けていただいていると思います。

認知症と検査の専門知識で病棟スタッフを支援

今年の10月からは「認知症ケアチーム」の一員として、週1回の病棟ラウンド(巡回)に参加しています。
認知症ケアチームとは、認知症の患者さまが安心して過ごせるように療養環境を整え、病棟スタッフと協働して認知症の悪化を予防し、身体疾患の治療を円滑に進めることを目的とした他職種のチームです。メンバーは、精神科医師、認知症看護認定看護師、精神保健福祉士、薬剤師、理学療法士、臨床心理士、そして臨床検査技師で構成されています。
活動内容は病棟スタッフが対応に困っている患者さまに対し、身体的、精神的変化をチーム内でそれぞれの立場から意見を出し合い、患者さまに適した対応策を考えることです。臨床検査技師の立場から原因が推察できるときは、有用だと考えられる検査データを示し、他職種とディスカッションしています。
また、院外活動にも力を入れており、東京都臨床検査技師会が主催する研修会や東京都医学検査学会での認知症講座に継続的に参画しています。最近では、日本臨床衛生検査技師会や認知症予防学会で発表する機会もいただきました。
現在、IMSグループで認定認知症領域検査技師は私一人ですが、後輩が資格取得を目指しています。超高齢化時代、臨床検査技師が認知症の患者さまに関わる機会は増加しています。安全で正確な検査の実施はもちろん、入院生活を穏やかに過ごしていただけるよう支援に力を入れていきたいと思っています。


病棟ラウンド後、認知症ケアチームでカンファレンス

認定認知症領域検査技師とは?

認知症に対する臨床検査の専門資格。認知症の専門知識を持つ認知症領域検査技師が対応することで、認知症の患者さまが不安なく正確な臨床検査を受けられるようになることを目的に、2014年度に創設された。「日臨技生涯教育研修制度」を修了し、所定の研修の基準単位を満たした上で、認定試験に合格すると、認定認知症領域検査技師制度審議会により認定される。

鶴川サナトリウム病院